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第24話 お見通し

 楽屋に戻るまでは、少しの時間を要した。京が脱力しきって足元が覚束なかったからだ。  舞台袖の暗がりで、二人抱き合って共鳴する鼓動が鎮まるのを待つ。トクン、トクン、と響いてくる高鳴りが愛おしくて、俺は京のブラウンの髪を撫でた。 「大丈夫か?」 「うん。早く戻らないと。眞琴さんが待ってる……」  舞台上でのパフォーマンスは、MCに変わっていた。声が漏れてしまわぬよう、囁き交わす。俺にしがみついていた手を離し、京は少しよろけた。すかさず肩を支えるが、大丈夫だというように柔らかく掌で押し戻される。名残惜しく、俺は京と身を分かち、楽屋へと戻った。 「眞琴さん、お待たせしました」 「まっ」 「え?」  マコは、声をかけた京の顔をしげしげと眺めると、短く感嘆符を吐いた。京はそれに、疑問符を返す。俺は空っとぼけて目を逸らしたが、ニンマリとマコは歯を見せた。 「随分と甘い『お話』だったようね」 「えっ……」  京が途端に頬を上気させる。何か口走って墓穴を掘ってしまわない内に、俺はマコに水を向けた。 「ライヴの感想を聞いただけだ」 「それにしては、長かったわね」 「ハグしてた。悪いか?」 「んまっ。いけしゃあしゃあと!」 「し、真一」  京が腕を引っ張って俺を止めるが、どうにも冷やかし癖のあるこの『先輩』は、京を困らせるのが好きなようで、多少気に障った。いっその事、キスしてたって言っちまおうか?  だがそんな胸の内を見透かしたように、また京が俺の腕を強く掴んだ。 「分かった分かった。悪かった」 「京、アンタ男見る目ないわね。こんな強引な男の、何処が良いのかしら。男は冷たいくらいがクールなのよ!」  大きな声で憤慨するマコに、他のメンバーがチラリと目線をくれる。京がますます真っ赤になった。 「眞琴さん、黙ってください!」 「あら、ごめんなさい。アンタ、カミングアウトしてないんだったわね」  しれっと言って、マコは明後日の方を向いた。京は、メンバーから見られているような気がしたのか、 「じゃ、もう帰るよ、真一。眞琴さん、行きますよ」  早々に楽屋を後にした。

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