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第47話 大好物

 髭を剃り終えるとメンバーたちに電話をかけ、Seekerのデビューの条件を伝える。運良く三人全員と電話が繋がった。  正史郎さんは冷静に少年貴族の事を聞き、マコはすでに勝った気でハシャぎ、健吾は現実的に作戦を練った。 『そいつらって、二十代の男と子供なんスよね?』 「ああ。歌は聞いてないから何とも言えねぇが、ルックスは折り紙付きだ」 『真一先輩がそう言うって事は、相当なんすスね……。俺、負けないっス!』  自分たち──特に自分──のルックスに自信のある健吾は、声を大にして張り合う。俺はそんな健吾のプライドに、微かに笑った。 「まあでも、ヴォーカルの坊やとは歳が全然違うから、後は好みだろうな」  各自持ち味を磨こう、と建設的な意見を交わし、俺たちは電話を終えた。  そして、また曲を作る。最初のライヴまで一週間、ベストを尽くす為に、出来るだけ多くの曲を作りたい。幸い、京との生活から沢山のイマジネーションを得て、頭の中では メロディーがひしめき合っていた。それを譜面に落としていく。  食を忘れて曲作りをしていたら、朝番の京が昼過ぎに帰ってきた。スーパーのビニール袋を手にして。 「ただいま、真一」 「おう、おかえり。いつもより早かったな」  ソファの周りに散らばる譜面を見て、京は笑った。 「いつも通りだよ。真一が曲作ってたから、早く感じただけだ。お昼、食べてないだろ」 「ああ、そう言えば」 「バンドの事も大事だけど、身体壊さないようにしてくれよ、真一」  キッチンに食材を置いてきた京が、散らばった譜面を拾って歩いて、整頓してくれる。俺は礼を言って、一息つく事にした。 「飯は何だ?」  ソファの隣にくっついてくる京にバードキスをして、ブラウンの後れ毛を撫でる。 「サイコロステーキ。栄養つけなきゃと思って」 「イエス!」  俺は指を一つ鳴らして寿いだ。好物が、肉だったからだ。そんな京の気遣いが嬉しくて、きゅっと京を抱き締める。 「そんなに嬉しい? 安上がりだな、真一は」  首元に頭を埋める俺に、京がくすぐったそうに笑った。 「さ、ご飯食べよ」  京は、自分は賄いで食べたから、と、俺に肉を焼いてくれる。野菜サラダもたっぷりと。ホント言うと、野菜はあんまり好きじゃねぇんだけどな……。身体の為に、と出されるものを残す訳にもいかない。食べ終わると、すかさず京が片付けてくれた。 「京、聴いてくれねぇか」  俺たちはソファに座って、俺がギターを握り、自信のある一曲をかき鳴らす。グラムロック調のその曲を、京は足で小さくリズムを取って聴いていた。 「どうだ?」 「凄いよ真一……! 何て言うか……色っぽい」  その言葉に、俺は唇の端を上げた。京がそう感じるのも無理もない。 「『あの時』に頭ん中で鳴ってた曲だからな」 「え?」  俺の言葉の意味が分からず、数瞬ポカンとしていた京だが、にっと僅かに歯を見せると、すぐに理解して髪の毛一筋の先まで淡く染めた。 「真一……!」  非難したそうに声を上げるが、どう話したら良いものかと、言葉を喉につかえさせたまま、口をパクパクさせる。俺はまた一つ笑った。 「安心しろ京、誰にも言わなければ分かんねぇんだから」 「そうだけど……恥ずかしいよ」  ポソポソと呟く京の頭を、ポンポンと撫でる。 「俺のインスピレーションは、お前だ、京。いつも隣で輝いていてくれ」  顔を淡く染めたまま、京はちょっと笑った。 「気障なんだから……」 「さ、風呂に入って気持ちよくなろう」  今宵も、スローセックスする気満々で、俺はギターの代わりに京の身体をかき抱いた。

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