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第57話 ハッピーエンド
※前半、ピロートーク的シーンがあります。苦手な方は、読み飛ばしてください※
胸の下で何かが蠢く感触で、目が覚めた。だが寝起きの悪い俺は、緩く覚醒する無意識の中で、それを大切に抱き締めていた。
「京……」
呼び慣れたその名を口にし、ハッと意識が浮上する。
「真一……苦しい……っ」
気が付くと、昨夜 愛し合ったままの体勢で、俺は京を抱き締めて眠っていた。京も、よくこんな姿勢で眠れたものだ。失神に近かったのかもしれない。俺が動くと、京が喘いだ。
「ぁっ、駄目、真一、抜いて……」
健康な印に勃ちあがっている俺が、京のイイ場所に当たっている。一瞬、このまま抱きたいと思ったが、失神するほど激しい行為が京に負担をかけている事を考えて、俺は仕方なく京の雌花から俺自身を引き抜いた。
「ぁんっ……」
京が色っぽく鳴く。長い睫毛には朝露のように涙が乗っていて、いっそう色香が漂っていた。
「京、悪かったな。身体、大丈夫か?」
俺は沸き上がる欲を堪えて、京の腰を擦 った。
「ぁ、や、だってば……」
ますます京が顔を歪める。感じちまって困る、ってトコか。理性を溶かすその表情に、すぐに俺は身を離した。だが京が、下から迎え入れるように手を伸ばす。
「真一……」
「ん?」
「おはようのキス」
昨日までとは違う、恥じらいのない柔らかな微笑みをたたえ、京が囁く。一つになれた事で、気持ちが良い方向に変わったのだろう。眩しいその微笑に、俺も思わず微笑み返しながら啄むようにキスをした。
「おはよう、真一」
「ああ、京」
それから俺たちは、あまり動けない京を抱えて二人でシャワーを浴び、簡単な朝食を摂りながら色んな事を話した。
初めて京が引っ越してきた時の事、京からの告白、バンドを組もうと決めた夜。まだ付き合い始めて日は浅いが、本当に色んな事があった。
「俺の何処が良かったんだ?」
わざと意地悪く訊いてやる。すると案の定、京は照れ臭そうに答えを躊躇った。この辺はまだウブだな。そう思いながら、ダイニングテーブルに片肘をついて頬を支え、我ながら人の悪い笑みを浮かべて京のカオを堪能する。
幾度も尋ねると、京は頬を上気させながら、観念したようにポツリポツリと語った。
「熱中症の俺を看病してくれた優しいトコとか……ライヴで格好良いトコとか……」
「とか?」
「……もう! 意地悪。全部だよ!」
問い詰めると、京は真っ赤になって白状した。そんな京が可愛くて、俺は向かい合ったブラウンの髪をポンポンと撫でた。
「はは、悪りぃ。訊いてみたかったんだ」
「真一は?」
「ん? 俺も全部だ」
「ズルい!」
「ズルくない。ホントの事なんだから」
俺ははぐらかして、テレビをつける。
『昨夜行われたSeekerのプロデュースライヴでは、WANTED with rewardがデビューを果たし──』
「「あ」」
同時に声を漏らし、画面に見入っていると、俺が京にキスしているシーンも映し出された。
「うわっ。カメラ入ってたんだ!」
「Seekerにやられたな」
京が頬を染めて非難の声を上げた。
「君がキスしなければ良かっただけの事だよ!」
だがそんな可愛い怒りは、俺にはちっともききやしない。
「言っただろ。これからもするから慣れろって」
「真一……!」
『なおWANTED with rewardは、ロンドンを皮切りに世界ツアーが予定されており、チケットは──』
それを耳にして、俺たちは小競り合いも忘れて顔を見合わせた。
「「Seeker……」の奴……」
「どうやら、しばらく忙しくなりそうだな。その前に……京」
俺はベッドに座り、手招いた。京の反応は、少し赤くなった後、立ち上がって飛び付くように俺にダイヴしてきた。
夢中で口付けを交わす向こうのテレビ画面では、正史郎さん、マコ、健吾がインタビューを受けていた。俺が、携帯も家電も全て切って京に溺れていたと知れるのは、この日の夜になってからだった。
「真一……愛してる」
「ああ、愛してる、京」
一体何をしていたのかと正史郎さんに厳しく問われ、京が真っ赤になって顔色で白状してしまうのは、明日の朝の事になる。
Happy Happy End.
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