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第11話 お返し
「お帰りなさい!」
「……京。どうした?」
「どうもしないよ。昨日の君の真似しただけ」
カウンターキッチンで、はつらつとした笑顔が出迎えてくれた。シャクシャクと良い音がなるのは、京の手によって一口大に千切られるレタスの音だ。それと、この匂いは――。
「カレーか」
「うん。あの、昨日はごめん」
「いや、疲れてるんだろ。無理しなくて良いぞ」
「でも、俺も真一と一緒にいたいから……」
サラダにトマトとゆで卵を切り入れながら、京ははにかんだ。そう言われては、俺も悪い気はしない。
「手伝う」
「あ、もう出来たよ。じゃあ、運ぶの手伝って」
言葉通りにすると、香ばしいスパイスの香りが部屋に満ちた。俺は独り暮らしが長かったから、誰かと、愛しい人とテーブルを囲むのは格別だった。
「やっぱり、愛のこもった味だな」
「真一ったら……」
昨日の逆で、今日は俺が後片づけをする。ビーズクッションに座る京の傍らで、日課になっている腹筋をしながら一緒にテレビを見ていると、京が聞いてきた。
「毎日やってるの?」
「ああ。仕事柄な」
「じゃあ、俺もやる。力仕事も多いから」
京は居酒屋でバイト、俺は警備員をしながらデビューを待つ、いわゆる売れないベーシストだ。いきなり腹筋を始めようとする京を、だが俺は止めた。
「待て待て。まず柔軟から始めた方が良い」
「え……俺、身体硬い……」
クッションから下り、座って足を揃え前屈すると、殆ど曲がらなかった。それでも顔を赤くしてうんうんと頑張る京に、俺は後ろから覆い被さるようにして背と胸を密着させた。そのまま極ゆっくりと力を加える。
「あ……! いてっ! 痛い真一!」
少し悪戯にそのままでいると、
「痛い痛い痛い」
と、床をタップされた。俺は笑いながら力を抜いた。
「ひどい真一!」
腕の中で身体を反転させ、涙目で京が訴える。二人の顔の距離は間近。だがそれには気付かず、京は上目遣いに俺を睨 めつけた。
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