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第5話
男は余韻に浸るようにゆるゆると腰を揺らしてから、自身のものをマツの中から引き抜いた。
俺はマツに駆け寄る。
「っ…マツ!」
「ご、権六さんっ…お母さんが……おれっ」
マツの手はこれでもかと言うほど震えていた。
そんなマツの手をとり、手の甲にキスをする。
その間、男は軽く着物を直すと刀を鞘の中にしまい俺に言葉を投げ掛けた。
「俺は武士だ。お前さん、今後も立場をわきまえるようにな。」
…この事は他言無用。そう言われていた。
平然とこの場を去る男を睨み付けながら、俺はギュッと拳を握る。
そしてその時再確認したのだった。
……そうか。この世界は身分で全てが決められている。
俺はマツを抱きしめた。折れてしまうのではないかと言うほど強く、強く。
「なぁ、マツ。あの時の交渉って覚えてるか?」
数週間前の記憶が蘇る。
『俺と……交渉しないか?マツ』
『こう、しょう…?』
『おう。…俺がお前の生きる理由になる。だから、マツ。…俺と生きてくれ』
マツは、覚えてると言い頷いた。
「…あれ、ちゃんと守ってくれるか?」
「うん。」
俺はギリと歯を鳴らす。マツの事をもう一度強く抱くと俺は決心した。
…この世界が身分で決められるくそったれな世界なら、逃げてやろう。
「じゃあ、旅をしよう。二人で綺麗な海を見に行こう。…それで」
…そしたらきっと、次の世界では
俺はマツにキスをした。苦しい思いも辛い思いも、忘れさせるような。
「…っ……俺と、死んでくれ。」
次の世界では二人で笑えるはずだ……。
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