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終章
店を抜け出し、川へ向かう
息を弾ませて暗い夜道を走った
いなかったら……?
でも、自分の選択を後悔したりしない
生きていく為に男娼になり、
夜毎、体を売ってきた
自分の幸せなど諦めていたはずだったのに
…………初めて 誰かを愛しく思う
大切にされて感じた幸せ
知らなかった恋心
燃え上がるような想い
自分の中にこんな感情があったのか…………
霧雨さま……
俺の愛しい人……
あなたの心が欲しい
俺の心をあげたい
…………願わくば、あなたの側で
川辺の桜の木の下に人影が見える
「霧雨さま!」
駆け寄ったら痛い位、抱き締められた
本当に来てくださった…………!
「琥珀……来てくれると信じていた」
霧雨さまの髪や肩には、
桜の花びらが沢山付いていて、
長い時間待っていてくださったのだと
気付き、胸が熱くなった
「本当に宜しいのですか?
じきに追手が来ます」
「お前と一緒にいられるなら、
他には何もいらない」
「霧雨さま……」
…………なんて幸せ
ひらひらと花びらが舞い落ちる
月明かりに照らされた淡い色の桜
散りゆく夜の桜は美しく、
まるで祝福されてるみたいに思えた
「お前の抱えているものを
一緒に背負わせてくれ。
琥珀……共に生きよう……」
伝えたい想いや言葉は沢山あった
だけど言葉にならず、涙が流れ落ちる
「……はい」
返せたのはたった一言だけ
幸せだと感じ、流す涙は温かかった
「琥珀はよく泣くな」
あなたに出会う前は涙を流す事などなかった
そう……
あなたにだけ……
「琥珀が来てくれて嬉しい……
このまま、ずっと抱きしめていたいが、
…………先を急ごう」
手を取り合って歩き出す
この先に何が待っているのか、
全く分からない
だけど、あなたと一緒なら、
どんな苦労も困難も
乗り越えていけると思うんだ
桜吹雪が舞う中
か細い月明かりを頼りに手を繋いで歩く
この先もずっと…………
(完)
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