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フィル・ブラッドローという男_第1話

フィル・ブラッドローは、女と酒と煙草に目がない性格を除けば、史上最高の執事としてその名を歴史に刻むに相応しい技量を持った男である。 普通の人間には縁のない夜の世界、おとぎ話としてしか語られない存在たちが生きる世界がある。獣人、魚人、鳥人……姿形は人と変わらず、高貴であり危険であり強力な存在たち。その中でも頂点に立つのが、吸血鬼、ヴァンパイアだ。 ヴァンパイアたちはいわゆる貴族として栄え、彼らに忠誠を誓う人間たちによって古から誰の手にも邪魔されず存在し続けた。 そのヴァンパイアに仕えるための教育を受けさせる、これも一部の人間にしか知られていない学校がある。そこで学ぶのは普通の人間たちで、卒業後にヴァンパイア貴族の家で執事として仕事をすることが目的だ。 そして執事学校設立以来の優秀な成績を修めた男、それがフィルである。 「長かったが…いよいよ我が絶対的主人、オルグレン家のためにこの命が使えると思うと嬉しすぎて失神してしまいそうだな」 清潔な白いシャツに黒のベストと黒のパンツ姿。ヴァンパイア貴族の一つであるオルグレン家に代々仕えるブラッドロー家、機能性と品質にこだわりにこだわって作られた執事服である。 オールバックにまとめた黒髪は太陽の光でツヤツヤと輝いており、彼の抱く希望を象徴しているようだ。高い鼻と二重まぶたの目、すらりと伸びた長い手足が加わって、誰もがふと立ち止まってしまう雰囲気を纏っている。 皮作りのカバンを片手に持ち、フィルは満足気に息を吸うと、オルグレン家の扉を叩いた。

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