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第1話

「……ついに、ここまで来たわね」 隣に立つ黒髪美少女のリオンが、溜め息を吐くような声で言った。 その視線は、目の前に聳え立つ魔王の城に向けられている。 辺りは闇に満ちていて、空に浮かぶ不気味な赤い三日月が俺たちを見下ろしている。 乾いた風が吹いて、リオンの長い髪が闇になびいた。 う、美しい……! リオンの綺麗な横顔に俺はゴクリと唾を飲み込んだ。 男ならば思わず手を伸ばして肩を抱き寄せたくなるほどだ。 しかし、今の俺にはそれができない。 なぜなら、俺は“魔法少女”なのだ。 半年前、異世界から召喚され、無理矢理魔法少女にさせられた俺は、元いた世界では普通のサラリーマン(三十二歳、童貞)だったが、今では男の象徴もない少女の体となっている。 本来、それぞれの村から選ばれた魔法少女が魔王を倒しに行くのだが、俺を召喚した村では男尊女卑ならぬ女尊男卑であり「か弱い女に魔王討伐に行かせるとは何事か!」とか弱い女性方からクレームがあり、誰一人として魔法少女になろうとしなかった。 それなら村の男を魔法で魔法少女にして魔王討伐に送りだそうとしたが「村の男は貴重な労働力だ!」とのレディ方々の強い意見があり、異世界から適当に男を見繕って魔法少女にしてしまおうということになったらしい。 そして適当に見繕われたのが俺である。 そんなめちゃくちゃな経緯で魔法少女になり、最初こそ絶望していたが、こうして美少女と一緒にいれるならむしろ元の世界よりいいように思えた。 一緒に魔王討伐のため旅をしているリオンに手を出す機会はいくらでもあったが、肝心のチンコがない。 まぁ、女だと思って心を許してくれているので、その分距離が近く、一緒に風呂に入ったりベッドで寝たりと女同士ならではのイチャイチャも楽しめたからよかったが。 不意に、リオンが俺の手をギュッと繋いできた。 リオンが微笑んでこちらをじっと見つめている。 やましいことを考えていたので後ろめたさでどぎまぎする。 「リ、リオン?」 「ユウ、こんな時に不謹慎だけど、魔王を倒したら、私、ユウに伝えたいことがあるの。……だから生きて一緒に帰ろうね」 リオンが頬を淡く染め、目を潤ませて言った。 え……! 伝えたい事ってまさか……! いや、そのまさかに決まっている。 こちらに真っ直ぐ向けられる熱い視線が何よりの証拠だ。 これは告白フラグの何ものでもない……! お母さん、彼女いない歴三十二年の俺にも、異世界でようやく春が来ました……! 「お、俺も! 俺もリオンに伝えたいことがあるから!」 「あら、本当? ふふ、嬉しい」 リオンが春風を纏ったような可憐な微笑みを零した。 これは一刻も早く魔王を倒さねば……! 「二人とも~、仲が良いのはいいけど魔王の城の前で気が抜けすぎだプル~」 見つめ合う俺たちの間に入ってきたのは、魔法少女の使い魔プルルだった。 薄ピンク色の短い毛足で額から背中にかけてシマリスのような三本線の模様が入っている可愛らしいマスコット的存在だ。 しかし、プルルが間に入ってきた途端、リオンは顔を顰めた。 「……あら、いたのねプルル。存在が薄かったから忘れていたわ。相変わらず戦闘力ゼロのくせに助言めいたことは一丁前ね」 「リオンこわいプル~。ユウ、リオンがボクをいじめるプル~、たすけてプル~」 「あ! またそうしてユウに近づくのやめてよね!」 俺の後ろに隠れるプルルにリオンが目を尖らせる。 なぜだかリオンとプルルはあまり仲が良くない。 もしかすると、リオンは元々他の村の魔法少女で、使い魔を失ってしまい途中から俺たちの仲間になったからかもしれない。 こうして俺を二人で取り合うような構図となることもしばしばだ。 プルルはその可愛いらしい容姿や声から実は人化したら実はボクっ娘美少女なのでは? と密かに期待している。 そうなれば夢の美少女ハーレムだ……! とのんきなことを考えている間に、リオンたちの間にバチバチと火花が散り始めたので、俺は慌てて仲裁に入った。 「ま、まぁまぁ、落ち着けよ。これから魔王を倒しに行くんだから、協力しないと、な?」 それぞれの顔を覗き込んで言い聞かせると、二人は渋々といった風だが口を閉ざした。 「……分かったわ、ユウが言うなら仕方ないわ。この獣とも協力するわ」 「ボクは元々ちゃんと協力しようとしてたプル~」 また剣呑な雰囲気になりかけたので、急いで二人の手を掴んで魔王の城へ乗り込んだ。

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