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第2話
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魔王の城の中は、冷たい闇で満ちていた。
プルルのまん丸なお腹がランタン代わりに柔らかな光を放ってくれるおかげで足元はよく見えるが、いつどこから闇に乗じて敵が襲ってくるか分からない。
俺は物音や気配に注意しながらゆっくりと慎重に歩みを進めた。
「ユウ、そんなに恐がらなくても大丈夫プル~。危険を察知したらユウにはすぐ教えるプル~」
「あら、それは私には教えないということかしら?」
「そんなこと言ってないプル~。リオンはボクの言葉を悪意で受け取りすぎプル~」
「悪意しか感じられないから仕方ないじゃない」
「リオンは言葉も顔も悪意で満ちてるプル~」
「あら、頭が悪い獣でも人の悪意を感じ取るくらいの知能はあったのね」
笑顔で互いを貶め合う刺々しい会話に、城内の空気の冷たさとはまた別に鳥肌が立つ。
「お、おい、二人とも、敵の城でまでケンカはやめ……っ!」
仲裁の言葉を遮るように、足元からまばゆい光が放たれた。
俺たちは歩みを止めた。
いや、止められたのだ。
足元には複雑な魔法陣が描かれていて、それが不気味に蠢き俺たちの足を絡め取った。
「あっ、あああああ……!」
体から血を引き抜かれていくようだった。
その感覚に悲鳴を上げる。
「ユウ、危ないプル!」
プルルが俺の腕を掴んだ。
そして次には、足元から魔法陣がなくなっていた。
いや、魔法陣が消えたんじゃない。
俺たちが消えたのだ。
気づくと、俺は暗い部屋の真っ赤な絨毯の上で倒れていた。
「こ、ここは……?」
「魔王の城の中プル~。魔物の気配がない部屋に転移魔法で逃げたプル~」
空中にいつものように浮かぶプルルの姿を見てほっとした。
「っ、リオンは!?」
俺は急いで体を起こして辺りを見回した。
しかし、壊れた鏡台やベッドがあるだけで、リオンの姿は見えなかった。
「ごめんプル~、ボクの力じゃユウひとりしか運べなかったプル……。でも、安心してプル! 使い魔の力で魔法少女の居場所はだいたい分かるプル~。リオンはちゃんと生きてるプル」
「そっか、よかった……」
プルルの言葉に胸を撫で下ろした。
「……ん?」
その時、少し違和感を覚えた。
眉根を寄せながら胸元を見ると、小振りながらも膨らんでいた胸がきれいさっぱりなくなっていた。
「……え? えええええ!?」
体の異変は胸だけではなかった。
「な、ない!」
胸を確認した後、すぐに股間へ手を伸ばした。
「あ、ある!」
魔法少女になって久方ぶりの息子との再会に慌てふためいた。
俺は部屋にある鏡台の元に駆け寄り自分の姿を確認した。
「う、うそだろ……!」
それは元の世界の俺の姿で、冴えない三十代独身童貞が立っていた。
……衣装は魔法少女の可憐なもののまま。
「気っっっ色悪っ!」
「ユウ、落ち着いてプル~。魔王に見つかってしまうプル~」
「こんな気持ち悪い己の姿見て落ち着いてられるか!」
魔法少女の時は美少女ではなかったものの少女と言うことでかろうじて許されていた衣装だが、今は完全にアウトだ。
変態にしか見えない。
これを自分だと受け入れたくなくて吐き気がするくらいだ。
「なんで元の姿に戻ってるんだよ!」
「う~ん、どうやらさっきの魔法陣に魔力を奪われて魔法少女の形を保たれなくなったようプル~」
「……は?」
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