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第11話
目を開けると、真っ暗だった。
「うわっ! 暗っ!」
「明かりを灯すプル~!」
プルルがお腹から光を放った。
そのおかげで、視界が少しあかるくなった。
そこは窓のない暗い石畳の部屋だった。
木の空き箱が雑然と転がっている。
地下の物置きなのかもしれない。
辺りを見回すと、少し壁に背をもたれ座り込んでいる人の影が目に入った。
暗がりなのではっきりとは見えないが、長い黒髪や着ている服からリオンに違いない。
「リオン!」
俺は急いでリオンの元へ駆けつけた。
リオンがゆっくりと顔を上げた。
遠目で見ても憔悴しきっているのは明らかだった。
こ、これは魔力供給の予感……!
不謹慎とは思いつつもついつい浮き足立ってしまう。
しかし、リオンの姿がプルルの明かりではっきり見えるところまで来て、その足は凍りつくようにピタリと止まった。
「え、えっと……リオン?」
思わず訊いてしまった。
目の前にいる人物は、確かにリオンの特徴と合致する。
ただ、体は華奢ではあるものの明らかに少女のようなか弱い輪郭ではなく、豊満な胸元も嘘のように消えてしまっている。
こちらに向けられた繊細な顔立ちにはリオンの面影はあるが、可憐さは微塵もなく精悍という言葉がぴったりなものだった。
……嫌な予感が背中を伝う。
リオンと思しき人物は、意を決っしたかのようにゆっくりと口を開いた。
「……そうだ、リオンだ」
プルルよりは幾分高いがとても少女の部類におさめることのできない低い声が返ってきた。
それは嫌な予感を確信へと変えた。
「……えぇぇぇぇぇ!!! 嘘だろ!?」
俺は叫ばずにはいられなかった。
信じたくない。
あの可愛いリオンと目の前の美青年が同一人物だなんて……!
リオンは悲しげに目を伏せて答えた。
「嘘じゃない。……すまない、女だと偽っていて。忌み子の俺は生贄として村から魔法少女として送り出された。もし俺が男だと分かったら国に処刑される。だから普段は魔力で女の姿になっていたんだが、どうやらさっきの変な魔法陣で魔力を吸い取られたようだ」
ここで明かされる新事実!
正直知りたくなかった!
「……でもっ、ユウにはちゃんとこの戦いが終わったら明かそうと思っていたんだ!」
イオンは勢いよく顔を上げると立ち上がり、俺の手をぎゅっと両手で包み込んだ。
「ユウ! この戦いが終わったら俺と夫婦になってくれ!」
「……え?」
顔の筋肉が引き攣った。
リオンは端整な顔を赤らめてじっとこちらを見つめながら続けた。
「俺は男で、ユウは女の子……、これで性別の壁はなくなった」
「いやいやいや! なくなってない! つーか今できた!」
「……今まで女の子として接して来たから男と知って驚くのは無理もない。だが、中身はちゃんとユウとずっと過ごして来たリオンだ」
「確かに男と知ってびっくりしたけどそういう意味じゃない!」
中身どうこうの話じゃない!
中身も大事だけど、性別はそれ以上に大事だから!
と、言ったところで引き下がりそうもない。
俺は後ろを振り返ってプルルに叫んだ。
「プルル! 俺を元の姿に戻してくれ!」
きっと男の姿を見ればリオンも俺と同じショックを受けて言わんとすることを理解するだろう。
「了解プル~」
ポンっと音がなって、ファンシーな煙が立ち込めた。
俺の体は見る見るうちに少女からアラサーのおっさんのものに変わっていった。
目を見開いて固まっているリオンに、俺は両手を合わせて謝った。
「ごめん! 実は俺もリオンと同じような理由で少女だと偽っていたんだ!」
しかもリオンと違って、俺は性別だけでなく年齢まで偽っていた。
これは俺以上にきっとショックを受けているに違いない。
それはそれで気の毒な気もするが、これ以上黙っておくのはお互いのために良くない。
リオンはしばらく俺を凝視していたが、やがて額に手を当てて俯いてしまった。
相当なショックを受けているようだ。
俺は全く悪くないけど、なんだか申し訳ない気持ちになって何か慰めの言葉をかけるべきか否か迷っていると、リオンがふらりと顔を上げた。
「……すまない」
「あ、いやこっちこそなんかすみませんね……。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。年上のユウをリードできるか少し心配になったが、一緒に頑張れば大丈夫だというビジョンが見えてきた!」
笑顔でそう言い切ると再び俺の手をぎゅっと繋いできた。
すごい!
性別の壁とっくに超えて別問題考えてたんだ!?
溌剌とした笑顔が眩しい!
「えっと……、俺もリオンも男だけど?」
「性別なんて関係ない」
「いやいやいや! さっき性別の壁とかどうとか言ってたのお前だろう!?」
「さっきはさっき、今は今だ」
なんて都合のいい頭なんだ!
いっそ羨ましい!
埒があきそうにないので、俺はため息ひとつ吐いて話を変えた。
「というか、結婚どうこうの問題以前に、まず魔王を倒さないといけないだろ」
正論にリオンはしょんぼりと口を噤んだ。
「でもリオンは今その姿ってことは魔力ゼロなんだよな?」
頷くリオン。
魔力供給ががどここうとか言う気配はない。
どうやら魔法少女同士で補給できることは知らないようだ。
そのことが分かってほっと胸をなで下ろす。
「まぁ、俺がサッサと倒してくるからリオンはここで大人しく待っておけ。結婚云々の話はそれからだ」
ポンとリオンの肩を叩く。
……よし、さっさと魔王を倒してトンズラするぞ。
俺は密かに心で決心した。
「それじゃあ、行ってきま~……」
「待て」
ガシッと強く腕を掴まれる。
腕を掴んでいたのは、人化したプルルだった。
「ちょ、ちょっとお前、いきなり人化するな! びっくりするだろ!」
しかも全裸なので余計心臓に悪い。
リオンも目を丸くしている。
そんな俺たちを気にすることなくプルルが続けた。
「魔力補給の件だが、ユウが私とリオンの間に入れば供給可能だ」
「プルルー!!! お、お前なに言ってんだよ~!」
せっかく騙せそうなんだから黙っとけよ!
そういう意味を込めて睨むが、プルルは睨みをスルーしてサラリと言った。
「つまり、私のモノをユウが口に咥えて私が注ぐ精液……あ、いや魔力を飲み下しながら下の穴でリオンと繋がれば、魔力は供給できる」
「プルルー!!! シャラーップ!!!」
慌てて俺はプルルの口を手で押さえた。
しかしすでに時遅し。
リオンの耳にはばっちり届いたようで、心なしか息を荒くしてリオンが近づいてきた。
「……つまりユウを介すれば、所属外の使い魔であるお前から魔力をもらえるというわけだな」
「そうだ。本当は私以外の男にユウを触らせるのは不本意だが、まだユウに俺のモノを舐めてもらってないことに気づいてな。仕方ないからお前にもおこぼれをやろう」
「いろいろ聞き捨てならないことがあるがとりあえずはそれでいこう」
どちらともなく手を差し出し固く握手を交わすプルルとリオン。
俺を置いてけぼりにして、不穏な同盟が成立してしまった。
俺はこっそりとその場から逃げ出そうとした。
しかし、
ガシッ!
左右から二人に挟まれ、腕を掴まれる。
まるで捕獲された宇宙人のような構図だ。
たらり、と冷たい汗がこめかみに流れる。
「ユウ、私を置いてどこに行くつもりだ?」
「ど、どこって決まってるだろ、魔王のところだよ!」
「その前に、俺の魔力供給に協力してくれ」
「今目の前で繰り広げられたエグい供給方法を聞いて誰が協力してくれると思う!?」
「ユウなら大丈夫だ。きっと上の口も下の口のように上手に私のモノを咥えられるはずだ」
「うわぁぁ! プルル、てめぇこのやろぉぉぉ!」
悪意があるのかないのか分からないが、さらりと下ネタを涼しい顔で投下してくるから油断ならない。
「聞き捨てならないが、まぁ、何はともあれまずは俺の魔力補給が先決だな」
「そうだ、仲間のピンチを救うのも魔法少女の務めだ」
「そんな務め初めて聞いたけど!? ……って、放せこのやろぉぉ! 誰か助けてぇぇぇ!」
しかし俺の咆哮は虚しく冷たく暗い石畳に吸い取られるだけだった。
もういっそ魔王でもいいから、この状況から救い出してくれ……!
だが、もちろん誰も助けに来ない。
「よし。それじゃあ、さっきの部屋に行くか」
パチン、とプルルが指を鳴らした。
「もう魔法なんて懲り懲りだぁぁぁぁ!」
俺の叫びは魔法の煙とともに闇に消えていった……。
-了-
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