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第5話

「清さまっ…………」 襖を開けると、清様がいつもの椅子へ座っていた。長かった黒髪をばっさりと切って耳上で揃えており、全くの別人に見えた。 「雄一郎、こちらへおいで」 ふらふらと覚束無い足取りで呼ばれた方へ向かう。清様はにこりと微笑み、跪いた俺の頬を撫でた。 「安西のことを父上に言ったのはお前だね」 「っ…………」 言葉にならない返事をして、俺は頷いた。なんと愚かなことをしてしまったのだろう。清様のお手を取ると涙が溢れてきた。後から後から、とめどなく熱い雫が流れ落ちる。 「…………ごめんなさい…………」 汚い手から主を守りたかっただけなのだ。俺が告げ口をしたばかりに、清様が遠くへ行ってしまう。何よりこれからお世話ができなくなり、お傍に居られなくなる。 ひとしきり泣いた俺を見届けて、清様がゆっくりと口を開いた。 「謝るのは俺の方だ。俺は雄一郎を利用したんだ」 俺を……利用した……? 「すまない。俺はどうしてもここから、伊集院の屋敷から出たくて雄一郎を利用した。お前の好意を知っていて、安西と関係を持ったんだ」 「な、んで、そんな、こと…………」 「お前には分からないだろう。この部屋で一生を終えなければいけない恐怖を。このまま朽ち果てていくだけのひ弱な身体を抱えて、過ぎる季節だけが俺の命を刻んでいく。お前が何とかしてくれると信じて、俺は安西に抱かれた。痣もわざと見せたんだ」 「え……わざと?」 「兄上は俺を恐れ疎んでいる。数年前に病気をしたことをいいことに、ここへ閉じ込めたんだ。俺は、お前が来てくれて心が踊ったよ。毎日が楽しくなり、絶望だった未来に光が差したんだ。いつか抜け出したいと希望が湧いた。 すまない。雄一郎を沢山苦しめてしまった。結果的にお前を踏みにじってしまって。安西のことを問いただされる前に、父上には俺から直訴したよ。そしたら分かってくださった。やっと父上と本音で話が出来たんだ」 全ては清様のご意向通りだったのか。 清様はこれから療養施設に入り、勉学に励むため遠くの学校へ通うという。目の前に居るのは、ひ弱な姿ではなく自らの力で未来を切り開く頼もしい主だった。 俺は……俺は、どうしたらいい? 孤独という絶望に打ちのめされ、打ちひしがれているだけのつまらない存在…… 「雄一郎、お前は俺のことが好きか?」 優しい声が俺に語りかける。もう清様からこうしてお言葉をいただくことはないと思うと再び涙が止まらなくなった。 「好きです……私は、清様を心からお慕い申しております、本当に……本当に……」 「ありがとう。俺も好きだよ」 頬に生暖かいものが這う感触が走る。それが舌だということに驚き顔を上げると、清様に口を吸われた。

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