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第13話
「あれ、ここ」
目前には見慣れない景色。
知らない間に歩きすぎちゃった。
戻らなきゃ。
その時明かりがこぼれる一室を見つけた。
少しだけ開いた扉から差し込む光に無意識のうちに吸い込まれる。
そっと手を当て扉の向こうを見つめる。
しのぶさんだ…。
優しい人。
机の前に座って何してるのかな。
うわ、すごい。
机上にはおびただしい数の歯車に黄金色の輝きを持った時計が置いてあった。
紫薫さんはそれを丁寧に扱っている。
見とれてしまった。
彼の瞳に。
時計や歯車の輝きさえ吸い込んでしまう漆黒の瞳。
気付けば無意識に足を踏み入れていた。
「…!」
「あ……ごめんなさい!!」
まずい…非常識なことをしてしまった。
「なんだ結糸か、びっくりした」
彼は器用な手つきでものを置くと
「おいで」
と、俺を自分の膝に乗せてくれようとした。
最初は躊躇ったけど結局座った。
紫薫さんはとても暖かかった。
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