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第1話

「知久、大丈夫か? おまえ飲み過ぎだ」 「大丈夫だって! 里見また明日研究室でな」 帰り道、バス停の簡易椅子を見付け腰掛けた。 「飲み過ぎた…ねみ…」 ん? 蹄の音? 「とき…ひさ…さま!」 「知久だ! ってあれ?!」 「何言っているんですか! ここで寝ないで下さい! 本当、貴方って人は!」 声を掛けてきた男は、黒のスーツに詰襟の洋シャツ、黒のネクタイどういう格好だった。 凛と涼しげな目元と鼻筋の通った色白の顔立ちに黒髪が風に靡いて____ 「……綺麗だ」 「乗って下さい!」 男の差し出された手を掴んだ。俺は座席に座り、感じたことのない座り心地にまた意識が薄れていく。軽快に地面を掻く音が遠くで聞こえた____ ゆっくり目を開ける。凝った造りの天井が目に入った。 大きく取られた窓には、細い木が縦横に間をすかして入っている。その間から優しい朝の光が差し込でいた。 フックの付いた衣類掛けが目に入り、そこに着ていた紺の袷と鶯色の袴が掛けてあった。里見が和装好きで、おまえも着物を着て来てこいと言われ、詰襟の洋シャツに袷と袴でそれっぽくしたら結構ウケた。 岸辺にこれは大事な着物だから丁寧に扱って下さいって言われていたのに寝ちまったんだっけ…… 「痛っ!」 酷い頭痛で額を押さえた。部屋の格子戸を軽くノックをする音が聞こえた。 「時久様、お目覚めですか?」 「…? 起きてるけど」 格子戸が横に開いた。俺の方へ目線を向ける男は昨夜、声を掛けてきた男だった。男は仕立ての良い黒のスーツを着ていた。涼しげな目元と鼻筋の通った色白の顔立ちはやはり目を引く。確かに美人だか、なぜ男に対して綺麗だとか思ったんだろう。 「私の顔に何か付いていますか? 毎日、顔を合わせているのですから珍しくないでしょう」 「え? 毎日?」 「若様いい加減にして下さい。昨夜はあんなところで寝ているし、帰りたくないとごねて仕方なしに私使用のこちらへお連れしたのですよ。高校科にご進学なされたのだから、もう少し自重なさってはどうですか」 「ちょっと待て誰が高校生だって? ってかあんた誰? ここの人?」 「本気で仰ってますか?」 頷く俺に男は、ため息を吐くとゆっくり口を開いた。 「時久様は、青木貴久子爵の御嫡男この春から桜蘭高等科にご進学なされたのです。私は時久様の教育係を務めさせて頂いております。家令の志賀直樹でございます」 家令で教育係……? どこから蹄の音がする。ガラガラと引く車輪の音は昨夜聞いた音と同じだった。俺はベッドから飛び起きた。その時、何かが床に転がったが構わず格子戸に走り開けた。 「時久様!」 俺は出口を探して廊下を走った。土間を見付け、段差に蹌踉けながら格子戸を開けた。そこは何かで見た昔の風景だった。 「時久様」 「今何年だ」 「は…?」 「西暦……」 「1923年ですがそれが何か?」 大正時代?! まさか…… 「っっ!」 「時久様!」 また酷い頭痛に襲われ額を押さえた。俺の身体支える腕の中、意識が薄れていく____

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