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プロローグ3

「…ごめんなさい、迷惑おかけしました…。」 「…俺に言われても困るんだが。」 気まずそうに頬を掻きながら、溜め息を一つ吐いた見知らぬ男。 「ヒロが来る前に服着れば?」 「あっ…見苦しいモノを見せてしまって…。」 冷めた眼差しを向け、さっさと部屋を立ち去った彼の後ろ姿をぼっとしばらくの間眺めていたが、さっきまでの自分の過ちに恥ずかしくなり、乱れた服を掻き集めてはバタバタと着込んでいった。 --------------- 「…あのっ…、誰か…。」 寝ていた部屋を後にしてから、長い長い廊下を歩いているがさっきから誰にも会わない。 助けてくれたあの男の人に一言お礼の言葉を伝えたらここを出れるんだが…。 「…だから。」 「ばか……よ。」 暫く歩いていると、奥の部屋から話し声が聞こえてきた。やっと人に会えそうだ。さっきの人が何処にいるか聞かなければ…。 「失礼し…?!「目が覚めたんだね、大丈夫かい?!」 扉を開けた瞬間、ぎゅっと誰かに抱き締められた。あの時の甘ったるい香りがした。 「…バカ。びっくりさせてるだろうが。」 気だるそうにさっきの人が僕を見た。 「だって…中々目が覚めなかったから。」 「だとしても、いきなり飛びつくバカはヒロくらいだろうが。」 「あっ…の…。」 この状況は一体何だろう?甘ったるい香りの男に抱き締められ、醜態を晒した男に同情されている。恥ずかしいやら、嬉しいやらぐちゃぐちゃな気持ちでいっぱいになった。 「ごめん、ごめんね?身体はもう大丈夫かい、酷く酔っていたから心配になって…。」 甘ったるい香りの君はまるでおとぎ話に出て来るかの様に儚く綺麗な人だった。 「助けてくれた…人ですか?」 咄嗟に紡がれた言葉は、余りに滑稽で汚く幼稚だった。 「なのかな?君が大丈夫そうで安心したよ。」 ふわっと花が咲いたかの様に暖かい笑顔に、今までの事がとてもちっぽけに感じ、何だか泣きそうになったのを今でも思い出す。 ---------------------- それが君と初めて出会った日。 そして君と出会わなければ良かった、そう思った日。

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