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光る君と呼ばれて 1
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俺は今上帝と月夜の更衣との間に生まれた皇子で、母が3歳で亡くなった後、実家の後援がないことと、俺が帝位につけば国は乱れると高麗人に予言されたこともあり、臣籍降下させられ、幼い頃からどこか寂しく哀しい気持ちを抱いて、生きてきた。
「光る君」
幼少の頃はそう呼ばれ、それなりに幸せで輝かしい日々も送っていたが、15歳の春、父である帝と久しぶりに対面してから、人生が一転したのだ。
そんな俺の過去の話を、お前にしてもいいか…。
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3歳で母を亡くした息子。
だが、お前はまだ知らぬが、私の血を分けた実の息子ではないのだ。
月夜の更衣に惚れ込み、無理やり奪ってきた時には、彼女の腹にはすでにお前が宿っていた。
帝の特権ですべてをねじ伏せたが、もう産まなくてはいけない時期が来ていた。
その後、出産で体調を崩した月夜の更衣はわずか3年で、この世を去ってしまった。
母親似のお前の顔を見るのも恨めしく、長年実家に預けていたが、月夜の更衣の母上も亡くなられ、久方ぶりに対面した。
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「お久しぶりです…長い間、お目にかかりたいと願っておりました。父上…」
感極まった顔でお前は私を見つめる。
「洋月(ようげつ)の君か…」
躊躇いがちに微笑みをたたえた洋月の君は、まばゆいばかりの若干15歳。
色白な透明感のある滑らかな肌
私に久しぶりに会えたことの喜びからか上気する桜貝のような色の頬
苺を摘んだような、甘く美味しそうな唇
雨に濡れたように輝く漆黒の黒い髪
静かな湖面を映すような、潤んだ瞳
私を置いてこの世を去った更衣の生き写しのようで、思わず、はっと息を飲んだ。
そしてしばらく忘れていた、私を置いてこの世を足早に去ったことへの憎しみが、湧き上がってきた。
この穢れなき息子の顔を見ていると、何故だか、無性に腹が立ってきた。
もともと身体が弱い月夜の更衣は、お前を無理に産んだから体調を崩し、早くに亡くなる羽目になったのだ!
憎しみから遠ざけていた息子が、ここまで母にそっくりに成長しているとは、あぁ…恨めしい。
お前のせいで、私は愛する人を永遠に手放したのだ!
無垢な目で見つめているお前とは裏腹に…
私はお前の本当の父ではない。
お前のせいで愛する人を失ったという恨みを持つ男でしかない。
そんな感情しか湧き上がってこなかったのだ。
残酷だが。
ずっと頭の中で考えてきた事を、いよいよ実行する時が来たようだ。
悪いが義理の父としての情などない。
しいて言えば「光る君」と宮中までうわさが届くほどの美貌を持つ容姿に育ったことだけは感謝する。
皇子から臣下へ降下させたのもこのためだったのだ。
お前を利用させてもらう!
そのお前の麗しい顔なら、どんな女子をも虜に出来るだろう。
まずは、その道を教え込まなければならぬな。
まだ何も知らない穢れなき顔をしているから。
お前がこれから歩む道は険しい。
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