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月夜に沈む想い 1

 見上げれば、そこには小さな窓が一つ。  そこから差し込んでくる心もとない光だけが頼りだ。  あれから一体何日が過ぎたのだろうか。朝が来て夕が来て、やがて闇に包まれる。ただそれだけを繰り返す日々。  牡丹は俺をここへ閉じ込めたきり、まだやってこない。  いつやってくるのか。   再び抱かれるのか。  そんな恐怖に怯える日々。  閉じ込められた数日は反抗して逃げ出そうと何度も試みた。だが今はもう……反抗する気力すらない。  躰を支えるのも億劫で、堅い床に仰向けになり、小さな窓から差し込む光を、ただぼんやりと眺めている。  手を伸ばしても、もう誰も握り返してくれない。 ****  ドンドンっ 「出せ! ここから出せ! ここを開けろ! 」  固く閉ざされた木の扉を、両手で血が滲む程強く叩いても何の反応もない。  食事を運んでくる舎人を蹴ってその隙に逃げようとも試みたが、扉の外に控えている大勢の牡丹の手下にあっという間に羽交い絞めにされ、床に首を押さえつけられて失敗に終わった。 「全く……洋月の君は何故、無駄なことをなされるのですか」  足元で俺を見下ろすように立っているのは、連れてこられた日、俺を罪人呼ばわりした背の高い大柄な従者だ。 「……」 「あなたをここから絶対に出すなときつく命令されています。可哀想ですが体力を消耗するだけです。牡丹様がいらっしゃるまで身を慎み謹慎なさっていてください、これは罰だそうです」 「はっ……罰? 罪? 俺が一体何をしたというのだ! お願いだ……逃がしてくれ」 「私には詳しいことは分かりません。牡丹様のご命令を受けたのみ……」 「お願いだ…」  泣き付いても縋っても無駄なのは分かっているが、冷静な答えしか返さない背が高い男に哀願してしまう。  自分の力ではどうしようもないことに抗って、泣いて過ごしている。  情けない。  出生の秘密はともかく、帝の御子として貴公子として表向きは育てられた俺が、今はこんな鄙びた山荘に幽閉され、泣くしかないなんて。  強くなりたいと願ったばかりだった。  でも結局何もできなかったな。 「丈の中将……俺はここにいる」  香を入れる袋に忍ばせた月輪に触れながら、目を閉じてそっと願う。  もう決して会えない相手だ。  でも……せめて俺の言葉だけでも届けばいいのに。 **** 「丈の中将……」  そう耳元で呼ばれた気がして思わず走らせていた馬から飛び降りた。辺りを見回しても、誰もいないことは分かっているのに。  洋月を乗せた網代車の轍を頼りに馬を走らせたが、月夜の湖の手前で、それはかき消されていた。まるで意図的に消したかのように、分からなくなっていた。 「くそっ!洋月を一体どこへ」  あの日、参内するはずの洋月が忽然と私の前から消えてから何日が経ったのだろう。洋月の手がかりは一向に掴めない。  帝の動向にも気を付けていたが、特に宮中から出ることもなく普段通り過ごされている。もしや宮中の何処かへ隠されているのではと隈なく探したが、足取りは掴めなかった。 「洋月……君は無事なのか……今どこにいる?」  洋月と分かち合った、月輪が露に濡れている。洋月の涙のように濡れている。  救ってやりたい。  守ってやりたい。  そう誓ったばかりなのに、何も出来なかった自分が歯がゆい。  悔しい……絶対にこのままにしたくない。  強い気持ちで今日も俺は洋月を探している。  必ず見つけてやるから待っていろ。

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