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第74話

「優弦……、駄目だ、それ以上は我慢ができない。それに……」  焦りの混じる櫻井の声が優弦を諌め、両手で頭を挟まれると剛直から引き離される。喉の奥で締めつけていた性器がズルリと音を立てて口から出てくると、けほっと優弦は小さく咳き込んだ。唇と亀頭の間をねばつく唾液が長く糸を引いて、そして玉になって途切れた。 「急にどうしたんだ。でも、積極的な君は嫌いじゃないよ」  艶かしく唇を光らせた優弦に櫻井は笑いながら言った。優弦を見おろす表情は優しさの中にどこか支配的な雰囲気もあって、優弦はうっとりとその顔を眺めていた。 「……おかしいんです。さっきから……なんだか頭がふわふわして……」 「そうだね。おれも君の扇情的な姿に参っているよ。もう少しで口の中に射精しそうになった」 「……出してもらっても、よかったのに……」  恨めしそうに口をついた囁きに驚いたのは優弦のほうだった。本当に自分はどうなってしまったんだ? どうしてこんなにはしたないことを……。 「嬉しいよ、優弦。おれを欲しがってくれて。でも最初は君からだ」  櫻井は優弦を抱きしめて、唇に光る唾液を舐めとる。それはまたは激しいキスに代わり、優弦も陶然と応じた。 (ああ、そうだ。こんなに彼が欲しくて切なくて……、堪らない)  今度は優弦がシーツの上に横たわった。櫻井も優弦に引き下ろされて太腿にまとわるスラックスとボクサーパンツを脱ぎ捨てる。優弦の股間で期待に揺れている花茎を右手できつく扱いて、隘路から溢れ出た蜜を強く啜った。 「あっ、ダメっ! はっ、ああっ!」  一気に電流が背筋を駆け上がる。普段の優弦からは想像もつかない高い声と同時に、張りつめた果実が収縮して白濁が噴き出した。 「まだ触れたばかりなのに。もう出ちゃったね」  じんじんと痺れる頭で櫻井を見ると彼の顎に自分の吐き出したものが散っていた。櫻井はそれを指先で拭い取り、なんの躊躇もなく口に含んだ。美味そうに舌舐りをした顔に、どきん、と胸が大きく高鳴る。 「甘いな。本当に優弦の体はどこもかしこも甘くておかしくなりそうだ」  そんなもの甘くもなんともないのは良く知っている。でも、自分だってさっきは櫻井のものを飲みほしたくて仕方がなかった……。  はっ、と我に返り、一気に羞恥に白い肌を赤く染めた。いったい、なにを考えた? こんなこと、ジェイクと抱きあったときだって、一度も考えたことはなかったのに。  うう、と呻くと恥ずかしさに堪えかねて櫻井に背を向ける。枕を抱き込み、顔を隠していると不意に尻を撫でられた。  櫻井の指先が形の良い双丘の狭間を割って入り込み、固く閉じたままの後蕾に到達した。ひくん、とわなないて優弦の意識がそこに集中する。指先は秘めた襞の一つ一つを数えるようにゆっくりと撫でたあと、とろりとした潤滑液が塗りつけられた。 「う……、うんっ、く……」  慎ましく窄んでいる後蕾に櫻井の指がゆっくりと捩じ込まれた。あの美しい万年筆を持ち、サインを施す指は今、優弦の花蕾をこじ開けて粘膜を探り始める。 「は……あぁ……、あっあっ」  くちゅくちゅと粘着質の音を響かせて指が増えていく。ゆっくりと抜き差しされる動きがもどかしくて徐々に腰が浮き始める。櫻井がすでに知っている、わずかな膨らみを指先で引っかけると、鋭い衝撃が走った。 「ああ――――っ!」  がくがくと腰が震える。なおも快感に疼く部分を執拗に刺激されて、優弦の花茎がピクピクと小刻みに振動した。 「ああ、優弦……。もう、我慢できない。挿れるよ」  櫻井の雄が猛々しく張り詰めて先走りを垂らしている。細い腰を掴み、優弦を仰向けにしようとした櫻井に、 「あ……、おね、がい……。このまま……」 「――でも、君は後背位(バック)は嫌いだと……」 「嫌いなんじゃなくて……、怖かったんです。あの夜のことを、ジェイクに裏切られたことを思い出しそうで。でも、雅樹さんだから……」  優弦が櫻井の目の前にゆっくりと腰を上げて四つん這いになる。肩ごしに振り返ったその瞳は熱く潤み、その淫靡な表情に櫻井は心を奪われた。 「あなたを、もっと深くあなたを感じたいから、――このまま繋がりたい」

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