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第73話
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カチャン、と扉の閉まる音がした。外界と遮断された途端にどちらともなく唇を貪り合う。高い水音を響かせ、玄関の壁に押しつけられて、息もできないほどに互いの舌を絡ませあった。
ここは優弦の住む小さなアパートの玄関だ。空港から櫻井を連れ、高速道路を西へと飛ばし、今晩泊まるところがないと笑った彼を優弦はこの部屋に誘ったのだ。
喰い合うようなキスをしながら靴を飛ばして室内へと入り込む。互いの衣服を剥ぎ取って、短い廊下にその抜け殻を点々と落としていく。優弦が櫻井の首元のノットに指をかけた。すると同じように櫻井も優弦のネクタイに手をかける。首元のそれを引き抜いて小さなテーブルの上へ、そしてカチャカチャとベルトを外してその場に放り投げ、床に金具の音が響いたときには互いのシャツの裾をズボンから引き出しながらベッドにたどり着いて、どちらが早く相手のボタンをすべて開くのかを無言で競い合っていた。
唇は片時も離れずに唾液を啜り合い、櫻井のほうがいち早くボタンを外し終わって、優弦のシャツを体から荒々しく剥ぎ取った。粗い呼吸に動く胸に右手を添わせると、すでに硬く勃ち上がった優弦の乳首が櫻井の手のひらをへこませる。櫻井は滑らかな皮膚の上から僅かに膨らんだ優弦の胸筋を揉みほぐし、しこった両の尖りを指先で弄ぶ。乳首の先端を爪で弾いて親指と人差し指で捏ねると、大きく口を開けたキスに応じながら、優弦は小さな喘ぎを奏でた。
「んっ、ふ、う、ふ……、んう」
もどかしげに悶えた優弦がやっと櫻井のシャツのボタンをすべて外して、櫻井を真似て彼の胸に両手を滑らせる。優弦の指が櫻井の胸の突起を掠めるたびに、手のひらに感じる厚い筋肉が小さく上下した。
櫻井の唇が首筋を這う。時折、きつく吸いついて、その音とともに優弦の白い肌に仄かに赤い花びらが浮かび上がる。櫻井が咲かせる花の軌跡は首筋から鎖骨、胸へと続き、乳首を口に含んで舌で転がすと優弦の甘い吐息がふわりと香った。吐息と同時に、ああ、と耳に入った微かな声に櫻井は、ふふ、と笑うと、「優弦、かわいいよ」と、膨らんだ突起を甘噛みした。
櫻井が優弦の肩に手を置き、ベッドへ押し倒そうとしたときだった。急に優弦がシャツの襟元を掴み、大きく振り回されると、気がつけば櫻井のほうがシングルベッドの上に仰向けに倒されていた。優弦は自分から制服のズボンを下着ごと脱ぎ去ると、突然のことに驚いている櫻井の両足の上に全裸で跨った。
「優弦?」
名前を呼ぶ櫻井を無視して、優弦はなにかに急き立てられるように櫻井のスラックスのホックを外しファスナーを下ろす。櫻井のボクサーパンツに包まれた屹立は、天井からの灯りを遮る自分の影の下でもその膨張した形をはっきりと顕していた。
――ああ、早く……。早くこれが……。
優弦がボクサーパンツを引き下ろした。布地に圧えられていた櫻井の雄が勢いよく鼻先で跳ねる。太い竿には青く血管が浮かび、張り出した亀頭の先には透明な雫が溜まっている。根元を繁る黒々とした下生えからオスの匂いが立ち込め、それは櫻井のコロンと混ざりあい優弦の鼻腔に侵入すると、思考を痺れさせる催淫剤に変わった。
優弦は少しの躊躇もなく櫻井の陰茎を口に含んだ。今までの経験なら、相手の幹を優しく手でさすり、滲み出る先走りを舌先で掬い取り、柔らかい唇を薄い皮膚に滑らせるようなフェラをしていたのに、櫻井の噎せ返る匂いはそんな手順を踏むことさえ忘れるほどに理性を失わせた。
目一杯に口を開いてむしゃぶりつく。櫻井の性器は太く勃ち上がり、喉の奥まで入れてもまだ収めきれない。それでも優弦は夢中で頬張った。唾液が溢れ、口の端から顎へと流れでる。頭を引いて鈴口を吸い、舌で幹を這う浮かんだ血管を舐めながら、また頭を下ろして呑み込む動作をリズミカルに続けた。
「んっ、んっ、ん……ふっ……」
優弦が動くたびに口の中で櫻井の体積が増した。いつの間にか櫻井が上体を起こして自分の股間に蹲る優弦を見ている。優弦は上目使いに櫻井を見上げた。
次第に櫻井の吐息が大きくなる。割れた腹筋が忙しなく動き出すと、優弦はさらに吸いつきを強くして動きを加速した。自分の口からじゅぷじゅぷと卑猥な水音が流れ、鼻から抜けた息に青臭い匂いが混じると、うずうずと腰の奥が疼き始めて、思わず右手を後ろに廻して双丘の奥へと指を進ませていた。
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