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第78話

「優弦の広島弁、初めて聞いた。かわいいな」  にやりと笑って肩を抱かれる。優弦が顔を真っ赤に染めて俯く前に、ちゅっ、と軽くキスをされた。雅樹さんっ、と今度は耳まで火照らせた優弦と手を繋ぎ、櫻井は、帰ろうか、と橋を下り始める。 「でも急に広島で生活することにしたからなあ。東京のマンションを引き揚げて早く住む家を探さないと。そうだ、いっそのこと一緒に暮らそうか」 「えっ、一緒に?」 「もっと広いところに引っ越してさ。そうだな、この橋に歩いて来られるところがいいな。二人で休みの日には、朝からこの景色を眺めに散歩をするなんてのは、どう?」  優弦は隣を歩く櫻井を見上げた。晴れ渡った青空と緑を湛えた島々を背景にした彼の笑顔は、光を帯びて輝く海に負けないくらいに眩しい。その眩しさに目を細めて、優弦は櫻井の手を握り返して頷いた。  いつもひとりで眺めていた海。でも今日からはひとりじゃない。これからは優弦を優しく包みこみ、隣でまどろむ彼にそっとキスをして、その耳元でこう囁くのだ。 「雅樹さん、輝く海を見に行こう」  笑いながら手を繋いで歩く二人に吹く風は、春の海の香りを柔らかく運んでいた。 ―― 輝く海を見に行こう 完 ――

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