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第1話
「しょうちゃん、みてみて~」
みさとはどこからか捕まえてきた野良猫の前足を掴んで二本足で立たせていた。
薄汚れた茶トラの太った猫は、おとなしくされるがままになっているものの非常に迷惑げな顔をしている。
「これこれ。にゃんこが嫌だってよ」
苦笑しながら言うと、みさとは「えー」と眉を曇らせた。その一瞬の隙をついて猫はその小さな手からぬるりと抜け出す。
「あぁ~、いっちゃった」
「うん。みさとちゃんも帰ろ」
彼女の小さい手を取るのは、いつも少し気恥ずかしかった。その手はいつも、初夏の土みたいに心地よく湿っていた。
公園から歩く道すがら、くしゃみが止まらなくなった。みさとは不思議そうな顔をして俺を見上げ、「かぜ?」と尋ねた。風邪ではない。おそらく。
帰宅するとますますくしゃみはひどくなり、俺は確信を持ってコロコロクリーナーを手にみさとを家じゅう追い回した。鬼ごっこのつもりか、ちょこまか逃げ回る彼女をひっつかまえ、猫毛まみれのピンクのフリースの上をくまなくコロコロしてくれた。しかしちょうどさっきの猫のようにするりと腕から逃げられる。
「ちょっ、くしょん!待てこら、みさとちゃんてば!くしゃん、み、みさと!」
その日が、俺の猫アレルギーが発症した日で、みさとを初めて呼び捨てにした日だ。
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