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第6話
「秘密裏の治療になるからよ。
バレたらいけないなら……真夜中にする必要がある」
「真夜中……」
「……坊っちゃんは学生だしな~……。
そこんとこどうにかする必要があるな」
すると泉がさっと俺の行事予定表を渡し、品川先生はそれを受けとると、ボールペンで丸を付けた。
「用意が早いな、泉。
水曜日に授業が早く終わるからとりあえず水曜日。
後は土曜から日曜にかけてだな」
一番近いのが、水曜日。
生憎明日は火曜日、学校に向かわないといけないため、割りとすぐに来ると考えれば背筋が伸びる。
なんせ、真夜中に先生の所へ行くとなると屋敷をこっそり抜け出すことが大前提で……。
もしこれがバレてしまったらと考えると、どうしようもない恐怖に陥る。
「……なーに怯えてんだ。
俺が坊っちゃんの家に侵入するんだよ」
「えっ……!?」
「お子様にそんな危なっかしいことさせるかよ。
須田に聞いたところ屋敷と俺の家は結構近いし、とりあえず窓開けとけよ」
……それを聞いて、1階に部屋があって良かったと思った。
俺の部屋のすぐ近くにはスターゲイザーリリーの庭があり、そこには監視カメラが無い。
いや、見栄えのために俺が敢えて付けなかったのだが、それはそれで今日役立つとは思いもしなかった。
「真夜中っていってもO時から大体3時くらいがめどだ。
しっかり寝とけよ」
「分かりました……」
「泉、もしものためにお前はドアの前で見張りな。
俺は坊っちゃんの父に顔バレしてるし危ないからな」
「了解。
翠様のこと……頼んだよ」
それにしても、こんなにサクサク話が進むとは。
若いと言えどやっぱり何かしらのカリスマ性と、決断力を持ってる。
ただでさえ医者は大変な仕事なのに、俺なんかの為に時間を裂いてくれてるんだ。
なんて優しい人なんだろう……本当に俺感謝しなくちゃいけないな。
「あの……よろしくお願いします!」
「ん。よろしくな。
その顔見てると、……俺のこと恨んでないな」
品川先生曰く。
副作用が絶対だと分かっているくせに訴える人が、たくさんいるらしい。
だから秘密裏の取引にし、値段を高額にする事でそれを避けてきた。
俺みたいにそんなことを思わない人は少ないみたいで、むしろ気に入られた様子。
これから関わっていく上で、品川先生ともこうやって仲良くしたいな。
「じゃあ明後日、深夜0時」
「……窓を開けて、待ってます。
ありがとうございました!」
*─*─*
「おい……日向、目付き良くないか?」
「いや……全体的に幸せオーラが飛んでるっつうか……」
火曜日、お昼御飯。
泉の激美味しい手作り弁当を食べていると、そこかしらで俺の話題が飛び交う。
思わず耳を澄まして弁当を食べていると、泉が小さな声でこんなことを呟いた。
「……翠様、発情期がこの辺りに来るとおっしゃられていましたが……パンドラの効果はありますか?」
「……うん。抑制剤飲んでないけど……この通り」
「……それは良かったです」
どうやらパンドラの効果は副作用以上にバッチリ効き目抜群らしい。
ちなみに泉はαな為こうして近づいて御飯を一緒に食べられるというだけでも……すごい事なんだろう。
そう考えると品川先生はすごい発明をした方……眼科医なのが勿体ないくらいだよなぁ……。
「あっ、そのチキンソテーはこちらのソースを付けてお召し上がり下さい」
「……あぁ!そっか。
間違えるところだった……」
「うーん、お醤油とオニオンソースを間違えるとなるとまだまだ勉強が必要ですね……。
今度からはカップの柄を変えてみます」
「ありがとう、泉!
すっごく助かる!」
昨日今日体験して、色覚異常となると様々なことで不便だと分かった。
まずは服を間違える。
ノートの表紙に何も書いていないと、分からなくなってしまう。
これ以外にまだまだある。
そんなこんなで泉の存在はかなり不可欠なもの。
慣れるまでは付きっきりでいてもらわないと、本当に困るだろう。
「そういえばなんですが……」
「?」
「本日お休みしている生徒さん、どこかで聞いたことのある名字で……」
ああ、そいつはひきこもりで有名な咲在グループの……。
そう言いかけたが、ふと御飯を食べる手が止まった。
いや性格には箸を落としてしまったのだ。
ドアを乱暴に開き入ってきたのはまさに一ヶ月まともに学校へ通っていない咲在グループの……咲在遊馬だった。
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