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第5話

受付のお姉さんに泉が話を通すと、35と書かれた番号札を貰った。 一応医師のため診察があり、患者として並んで貰うとのことだった。 35といっても既に20までは終わらせており、そう考えると品川さんのすごさが伺える。 1日に数十人以上の診察は大変だろう。 けれども少しは待たないといけないため売店で時間を潰す。 そこで疑問に思っていたあることを泉に聞いてみた。 「どうして品川さんに頼ることって秘密にしなければならないんですか?」 色覚異常を治し、さらにβ化のなればwin-winのはずなのに。 お父さんもその方がいいと言うだろう。 しかし、泉から驚きの一言が発せられ、思わず納得してしまう。 「……パンドラを使ったとしても、何も問題はございません。 確かに秘密裏の薬ですが、効果は認められてるんです。 医学界でも信用されています。 しかし副作用の方が今は有名になっている……。 パンドラを用いたとして副作用が無いとなるとあからさまに不審です。 パンドラの副作用は絶対と言われてるんですから。 ニュースでも取り上げられ、翠様がΩであることがバレてしまいます。 ……なんせ大企業の息子という立場なのですからね。 それを手助けするとなると危ういところもありますから……」 父さんは、跡取りにΩはいらないと言った。 紹介もできない、愛されているとは感じたが、社会的に俺は不利すぎる。 俺が一般人だったらこうやってこそこそと病院にいかなくても良い。 ……そう思うと一般人に生まれたかったな。 友達作って、遊ぶことだってできただろう。 ぽっかりと穴が開いたみたいに空虚な感情を持つことも……きっと無かった。 (なんか、悔しいな……) 同じ人間なのに、どうしてこんなに……違うんだろう。 「35番の方~!」 やがて俺の番が来て、息を整えながらもわくわくし扉を開ける。 泉は少し緊張した様子だったが、なぜそうなのかは第一印象ですぐ分かった。 黒髪をぴしっと上げたきっちりとした髪型。 白衣が物凄く似合うクールな感じのイケメン。 眼鏡がエリートさを醸し出していて、思わず唾を飲み込む。 「来たか」 そう言うと品川さん……いや、品川先生は看護師さん達を取っ払い、診察室に鍵を掛ける。 秘密の診察はだけあって、厳重である。 「久しぶりだな、泉。 そこのパンドラを飲んだ坊っちゃんは初めましてだな」 「お久しぶりです……」 「はっ、初めまして……」 何て言えばいいのか分からないが、「逆らってはいけない大人」の香りを感じる。 お父さんと同じ雰囲気のはずなのに、品川先生は裏がある感じ。 どちらかといえばその性格を持て余してるってイメージが漂う……。 「品川湊だ。 確かにこれは診察だが、研究の対象として扱わせてもらう。 患者じゃなくて、実験台な。 俺自身パンドラの副作用について知りたいことがある。 本来ならば金を請求させるが……」 にやっと笑い俺を舐め回すように見つめる。 それが何故かくすぐったくて、目を逸らしそうになる。 「いいとこの坊っちゃんの味を知りたいもんでな。 まあ取引は……その時が来たら考える」 机の上にあるメモにさらさらーっと文字を書き再び俺のことを見つめると、単刀直入に品川先生はこう告げた。 「パンドラの副作用の色覚異常は、通常の色覚異常とは違う。 治せなくて永遠と研究を重ねるかもしれない。 それでも、俺に着いてきてくれるか」 品川先生の瞳はあまりにも純粋で、医師としての威厳が谷間見える。 さっき泉が言っていた俺様でドSとは程遠く、覚悟を聞いているようだった。 決めたんだ。 約束を果たすんだって。 そのためならなんでもするって。 そうでもしなければ、延々と後悔してしまいそうだから───……。 この先生に、全てを委ねたい。 「……はい」 そう呟いた俺を見て品川先生は、再びニヤリと笑った。 「……契約成立だな」 そしてその様子を遠くを見るように、泉は見ていた。

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