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第3話

 昼休み。相変わらず声をかけてくる本郷を避けながら、眠いと言って1人で机に突っ伏す。本郷の周りの奴らからチラホラ俺の名前が聞こえるのは、悪口を言っているからだ。あいつは男からも人気だから、こんな俺に話しかけていることで何か言われているのかもしれない。  「佐倉くん、呼ばれてるよ。」  寝ようと思ってから10分くらい。知らない女子からの声に身を起こすと、なんだか廊下が騒がしい。俺に声をかけた人はいつの間にかいないし、一体誰に呼ばれたんだろう。  聞き間違いかと、もう一度眠ろうとすると、後ろから肩に両手を置かれる。  「佐倉 灰人(さくら かいと)っていうんだ、へぇー」  首元をゆっくりと上から下になぞられ、耳に息を吹きかけられる。変な声を出して椅子から転げると、上から見下ろす高良がいる。  「た、から......」  名前を呼べば、嫌そうに顔を顰めて頬を親指と人差し指でつままれる。  「俺は2年、お前は1年。先輩ってつけてよ。じゃなきゃ、あのことばらしちゃおうかな」  楽しそうな顔が教室中から集まる目に向かってそう言う。あのことってなんだ。  「俺と灰人が付き合ってること」  小さな声だったが、周りに聞かれていないかあたりを見渡す。幸い、誰も聞いていないようだったが、囁かれた声にカッと顔が赤くなり、恥ずかしさで俯く。付き合うって、やっぱり本気なのか?  「俺、男なんだけど」  高良改め、高良先輩の顔を引き寄せ、小さくそう言えば知っていると言われる。だったらなんで。口止めなんだろ?そう問う前に高良先輩が口を開く。  「人間なら男も女も愛せるの、俺」  また小さく呟くが、この会話がみんなに聞こえてないことを願う。男同士で付き合うなんておかしい。絶対、変だ。  「そんなにビクビクしないでよ、可愛いなぁ」  脇腹に手を入れられ、ゆっくり持ち上げられる。人とこんなに近づくのは初めてで、恥ずかしすぎて腕の中で暴れるけど、落とされそうになって慌てて彼の胸に顔をぎゅっと押し当てる。周りからのざわめき声が沢山聞こえて、もっと強く顔を沈めるが、耳に入ってくるのは自分の名前。いやだ、目立ちたくない。さらに変なやつだって思われるから下ろしてほしい、でも、声が出ない。  まだ5時間目の授業だってあるのに、高良先輩はそのまま俺を教室から連れ出した。

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