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第2話

 「佐倉?どうした、具合でも悪いのか」  現在、音楽の授業中。高良と出会ったのは移動教室の途中だった。予鈴が鳴ってやっと振り払うことが出来たが、掴まれた腕が熱い。  俺は今年の春入学した高校1年生。もう3ヶ月ぐらい経つけれど、あまり学校には馴染めていない。1人だけ話しかけてくるやつもいるが、先生に頼まれて話しかけてくれているだけ。そんな俺と付き合いたいか?高良のことを考えてぼーっとしていた俺を、心配してくれた先生に大丈夫だと伝え、発声練習に取り掛かるみんなを見ながら教科書を開く。もうすぐテストだから心做しかいつもより声が大きい気がする。  「顔色悪そうだけど、保健室行くか?」  話しかけてきたのは隣のやつ。さっき言っていた俺の唯一の話し相手で、名前は本郷 翔(ほんごう しょう)という。そんなに顔色悪いのかと顔を触るけど、分かるわけがない。  「大丈夫」  納得してはいなかったが、そう言えば渋々頷いた。本郷はクラスの学級委員で、サッカー部に所属し、その容姿は高良にも負けていない。サラサラの黒髪ストレートに、程よくバランスの取れた筋肉。男として羨ましいし、性格はもちろん、勉強だってできる。一学期の中間考査では1番だった。  「いつでも言えよ。俺が連れてくから」  覗き込む端正な顔にありがとうと小さく微笑み、少し顔を離す。いつも距離が近い本郷は、あまり人付き合いが上手じゃない俺にとっては恥ずかしくて、少しうっとおしいくて、めんどくさい。  授業が終わり、音楽教室から出始めると、本郷に手を引っ張られる。一緒に帰ろうと言われるのは嬉しいが、後ろで苦虫を噛み潰したような顔をする同級生が怖い。こっちに来るなといった負の感情をひしひしと感じる。せっかくの好意だったが、手を振り払い、俺を止める声を無視して教室まで走った。俺は人に好かれないから。  一番乗りに着いたものの、鍵のかかった教室には入れない。鍵が来るまでにトイレに行こうと荷物をロッカーに突っ込むが、ロッカーの扉の裏についていた張り紙に気づく。  ──死ね、消えろ  まただ。握り潰した紙の中に自分の怒りも閉じ込める。2ヶ月ほど前から始まった些細な嫌がらせが、じわじわと不快感を募らせる。  これは事実だから仕方がない。そう言い聞かせてトイレに行くが、いつもより荒く開けた扉がバンと音を立てて開く。誰もいないトイレの中で、緩んだ水道管から水滴の音がした。気持ちを落ち着かせ、蛇口を捻ると緩めすぎたのか勢いをつけた水が手から飛び出てシャツに飛び散った。  なんで、好かれないんだろう。  なんで、上手くいかないんだろう。  そんな声がこだましては、濡れて透けた肌色にため息をこぼした。  ー君、俺と付き合う?  やけに煩い高良の声が流れてきて、咄嗟に頭を横に振る。いや、ないから。好かれたいなんて思ってない。あいつは男、俺も男、だ。それに、あれは口止めなのだ。彼だって俺を好きなわけじゃない。  でも、もし本気で言っていたなら。話を聞いて、返してくれるような、そんな存在にはなれるかもしれない。淡い期待に少し気持ちが落ち着いたが、やっぱりないなと教室に戻った。

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