1 / 3
第1話
「お前のことなんか、絶対絶対っ、ぜーったい好きになんてならないんだからな!」
そう叫んだ俺の言葉が撤回されたのには訳がある。
俺と塾教師小川の出会いは、どう考えても恋愛関係になるような出会いではなかった。
◇
左手に光る腕時計を何度も確認しながら息を切らせつつ、階段を駆け降りる。俺は、秒針が1針進むだけで背筋がぞくっとするほど焦っていた。
学校から駅までバスで20分。そこから塾まで電車で30分。しかも塾の授業に間に合う時間の電車は1本のみだ。いつもなら余裕で間に合うその時間の電車も、今日は雨が降っていてバスが混んでいる所為でぎりぎりもいいところ、間に合うかどうかさえわからない。
階段を全て駆け下りた瞬間、発車の合図のメロディーがホームに流れる。
一番近くにあった車両に駆け込むと、すぐにドアが閉まった。間に合った、良かった、と安心したら急に疲れと汗がどっと出た。
「はぁ…っ、よか、た…間に合った…はぁ、はぁ」
空いている車両に移動しようと思い、呼吸を整えながら座席の方へ行こうとしたが、人の多さに押されてどうしても身動きが取れない。
仕方ないか、と思いドア側に立った。それが間違いだった。
ともだちにシェアしよう!