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第1話

ふと見上げるとまわりの木よりも早く咲いた桜が、強い風を受け多くの花を散らしていた。 雲ひとつない空に花びらが舞う様子は儚く、そしてとても美しかった。 取引先での打ち合わせを終え自社へ戻る途中、聡一は細い川の堤防に植えられた桜並木を見つけた。 蕾が多く、開花したばかりというところだろうか。開花にはまだまだ時間がかかりそうであった。 その並木道に沿ってしばらく歩くと川を挟んだ向こう側に一本だけ満開の桜があり、聡一は思わず立ち止まった。枝ばかりの木に囲まれたその桜は、花をたくさん咲かせ地面に影を作っている。見事に咲いた花たちは風に身を任せふさふさと揺れる。そこだけが切り取ったように春を主張していた。 折角なので写真に収めようとスマートフォンのカメラを構えたところで、川の反対岸からわいわいと愉しげな声が聞こえた。 横目で見れば黒い学生服を着た少年達が同じ紙袋を持って笑いながら桜の近くを歩いていた。そういえばこの近くに中学校があったことを思い出す。彼らの胸には同じ造花が誂えてあり、卒業式を終えたばかりの中学生だと聡一は見当をつけた。 三年間着たであろう学生服は、彼らの身体に馴染んでおりズボンの膝部分は光沢が目立つ。詰め襟まできっちりと締められたその姿は、彼らにとっても最後の思い出になるのだろう。 卒業のシーズンか、と桜に続き改めて春という季節を感じながら聡一はスマートフォンの画面に視線を戻しシャッターを切った。 その直後、先頭を歩いていた1人の少年が画面に侵入した。ちょうど桜の木の下に差し掛かったのだ。聡一はスマートフォンを構えたままの手を降ろそうとしたが、少年の次の行動に動きを止めた。 少年は歩みを緩めたかと思うと暑い、と声をあげながら片手で雑に学生服を脱いでいった。歩く速度は徐々に落ち遂には足を完全に止め、その場に脱いだ上着と荷物を置く。 空いた両手でYシャツの襟元のボタンを一つ外す。開けたシャツの首元から白い肌が覗いた。 画面に映されたその肌に、聡一は無意識に息を呑んだ。閉ざされていた部分の露出は、その肌が暴かれる様を彷彿とさせた。一瞬にして少年の手の動きが官能的なものの様に感じ、聡一はぎくりと固まり動けなくなる。 その少年は特別整った顔立ちというわけではない。中性的でなければ、小柄でもなかった。まだ幼さが残る顔、成長途中の体躯、仕草には色気のひとつもない子どもそのものな言動。その未成熟な少年に、聡一の欲は一気に掻き立てられた。 みてはいけないものを見てしまった様な、自身でも感じたことのない背徳感に襲われる。目を逸らそうと試みるが、じわりと陽の光を浴びた健康的な首元にその視線は釘付けとなった。 気が付けば構えたままだったカメラのシャッターボタンを、聡一は何度も押していた。 少年は腕まくりをすると、荷物を持ち直し、後からきた他の少年達と一緒にじゃれあいながら気付けば聡一の前から消えていた。 柔らかい空気の中、この時期にしては強い日差しが頬を刺すように照りつけている。今朝の天気予報で、日中は初夏の陽気になりそうだと言っていたことを聡一は思い出した。

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