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第2話
「はあ…」
聡一は会社の休憩スペースで、画像フォルダに保存されている桜の写真を見ながらため息を吐いた。立派に咲いた桜の木は、普段写真をあまり撮らない聡一から見ても良く撮れている。ただ、その写真には桜だけでなく見知らぬ少年も写っていることになんとも言えない気分になった。
「これって盗撮だよな…」
あのときの自分の行動が今でも理解できなかった。どうして撮ってしまったのだろうか。
聡一の性的対象は男性ではないし、出来れば同年代の女性と付き合い結婚したいと思っている。若い子を好む嗜好も持っていなかった。
今見ているのは何枚か撮ったうちの一枚だ。他の写真は消去した。この一枚もさっさと消してしまえばいいのだが、聡一はなかなか消去ボタンを押せずにいた。あの日からかれこれ二週間が経とうとしていた。
聡一は持っていたコーヒーの水面にまたもため息を落とす。もしかしたら自分にはそういう趣味があるのだろうか。最近この考えが頭をよぎり、聡一を大いに悩ませていた。
ちなみにあの日以来、見知らぬ少年を目で追ったり盗撮したりということはしていない。むしろ若い子が目に入った瞬間、避けている。確信が持てない中、これ以上深みにハマると自分がとんでもない行動を仕出かさないか不安でしょうがなかった。
聡一は画面に表示されている時間を見て、画像フォルダを閉じスマートフォンをポケットにしまった。残ったコーヒーを一気に飲み干し、紙コップをゴミ箱へ捨てる。そろそろ戻らなければならない時間だった。
この休憩スペースはフロアの端にある小さな小部屋だ。数年前まで喫煙場所に使われていたが、今はビル全体が禁煙となったため休憩スペースとして利用されている。
ただこの部屋の利用者はとても少なかった。トイレや自販機などがここから遠いことも理由に挙げられるが、壁に染み付いたヤニから発する臭いが大変不評であった。また、去年一つ下の階に共有の休憩スペースが新設されたことも大きかった。
聡一は1人になれるこの場所が好きなため、今でもこの休憩スペースを利用している。ヤニの臭いもあまり気にならないし、何より無音なのが心地よかった。
だが、最近この場所を好む奴が一人追加された。この春に異動してきた部下だ。
第一印象は親しみやすく明るい雰囲気で部下として当たりだなと聡一は思った。
まだ業務連絡程度の会話しかしたことがないためどういう人物かはよく知らない。
最初にここでかち合ったときは少し戸惑ったが、特にしつこく話し掛けてくることもなく今のところ邪魔という程でもない。ただ、一人になれる時間が少し減ってしまい残念に思っていた。
部屋から出るため、ドアを開けようと近づいたところでコンコンとノックする音がした。休憩スペース入るため、わざわざノックをするのは今しがた頭に浮かべていた人物しか知らない。
「はーい」
聡一が返事をするとドアが開いた。そこに居たのはやはり部下の湯河であった。
「あ!相川さん、お疲れ様です」
「おつかれ、ここ入るのにいちいちノックしなくていいよ。誰でも気軽に使っていいんだから」
「あ、はい、なんとなくそのまま開けちゃっていいのかなって…」
「まあ、廊下から中見えないもんな」
聡一は閉まる扉に手を掛け、自身も外に出ようとする。湯河はそれに気がつくと身体をずらした。
「はい…相川さんはもう戻られますか?」
「ああ」
じゃお先、と部屋を出ようとしたところで湯川に呼び止められる。
「相川さん、今週のお花見来ますよね?」
「ん?ああ、行くよ」
「そうなんですね、よかった!楽しみにしてます」
「ちょうど満開になりそうだしな、桜。今年は天気も良さそうだし俺も楽しみだ」
そう言うと今度こそと、部屋を出た。
今後この場所であの写真を見るのは危ないかもしれないと思いながら、聡一は自身のデスクに戻った。
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