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第3話
「ーーーということで、乾杯!」
幹事の発声に皆、かんぱーい!と声を上げ宴会がスタートした。
この花見に集まったのは同じ部署で働く三十名ほど。異動し新たに部に加わった者の歓迎会も兼ねているため、ほとんどが参加していた。
聡一は缶ビールを一口あおると、幹事に促されて挨拶をする湯河の声を聞きながら桜を眺める。
ここは桜の名所で、聡一達の周りでもたくさんの宴会が行われていた。桜はすっかり満開で、この週末は花見客のピークだろう。
ぼんやりとしていると、挨拶が終わったのか周りが拍手をしだしたので合わせて聡一も拍手をした。
「湯河くん、部長に絡まれてますね」
料理の乗った紙皿を渡されながら、隣にいた後輩に声をかけられた。聡一は礼を言って受け取る。
「あれはだいぶ気に入られてそう」
後輩は湯河たちの方を見ながら苦笑した。聡一もそちらを向くと部長に肩を抱かれニコニコする湯河の姿があった。
「まあ気に入られるのはいいことだしなあ」
「相川さんも、上からの信頼厚いですよね!昇進も早いし、さすがです」
「んー、俺は厄介ごと押し付けられただけだから」
「何言ってんですか!仕事めちゃくちゃ出来るし当然の人事ですよ。私が人事に居たらそうしてます!!」
「はは、ありがとう。でもまだそんな権限ないだろ」
「それくらい自分も相川さんのこと評価してるってことです!」
「ほー、ずいぶん上からだなあ?」
わー!すみません、とふざけたやりとりををしていると他の後輩達もこちらの話に混ざり騒がしくなった。
三本目のビールが空になり、新しい缶に手を伸ばそうとしたとき横にどかっと誰かが座った。
「っうお、びっくりした…」
「すみません、はあ…疲れた…」
見れば湯河が隣に居た。部長にずいぶん捕まっていたのか、ぐったりとした様子だ。聡一は笑いながら新しいビールを湯河に渡すと、自分の缶も開ける。
「おつかれ、ほら、乾杯」
「あっ、かんぱい…ありがとうございます」
一応上司にあたる聡一に気を遣わせたと思ったのか湯河は少し焦ったように、頭を下げてきた。
湯河の帰還に気付いた周りが次々に食べ物を差し出したりと世話を焼く。それを見ながら聡一は思ったことを口にした。
「まだ来たばっかなのに、もう人気者だな〜」
「え、人気者は相川さんじゃないですか」
「…は?」
人気者?自分が?とまったく予想していなかったことを言われきょとんとする。自分は今の湯河のように、その場に入った瞬間に誰かから構われるということは今までなかった。どちらかというと敬遠されている気がする。
聡一はあまり周りと上手くいっていないと感じていた。後輩は気を遣って普段から話しかけてくれたりするが、自分より上の人間とはそれほど話すこともない。きっと面白いことが言えないからなのだろう。なので、職場の知り合いとプライベートで会ったりなどは一切ない。そんな自分が人気者であるはずがなかった。
「いやいや、さっきからずっと誰かに話しかけられてたじゃないですか。俺、中々ここに辿り着けなかったんすから!」
「それは…」
それは自分が上司だから、と言おうとして口を閉じる。そうだとしても、自ら口に出すのは憚られた。
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