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第4話
「桜、すごいですね」
口ごもる聡一をよそに、湯河は桜を見やる。風が吹くと花びらが降るように散った。アスファルトの歩道では、舞い降りた花が落ちていた花びらを巻き込み渦を作りながら風に流されている。
「あ、写真撮っておきません?携帯は…あ…部長のとこ置きっぱなしだ…」
湯河はポケットを探す手を止めたと同時に自分の失態に気付きがっくりと肩を落とした。
「いま戻るとまたしばらく離してもらえないかもな」
聡一は笑いながら湯河に自分の携帯を差し出す。
「後で送るから、これで撮れば」
「え、あ、いいんですか?」
「俺あんまし写真撮らないから良い感じの角度?とかよくわかんないし。上手く撮っといて」
受け取った携帯を見ながら黙る湯河にどうした?と問い掛ける。
「あ、いや、あとで送ってくださいね!ぜったい!!」
「ああ、わかったって」
湯河が桜に向けてカメラを構えるのを見て、先日早咲きの桜を撮った時のことが頭をよぎる。一度思い出すとあの時の場面がどんどん浮かんできた。桜、卒業、制服、少年の首すじ、
「相川さん!……相川さん?どうしました?」
「あ、いや」
湯河の呼びかけに、ハッとする。
「みなさんとも一緒に撮りません?記念に!」
湯河はこちらの返事も待たず、周りに声をかけ始めた。そうしているうちに何枚か撮り終えたが、聡一の携帯を手にした湯河はそのまま次々に呼び止められあれよあれよと言う間に撮影係となっていった。
人の携帯で、とも思いつつ、アレでは断るのも難しいかと聡一はまだ手を付けていなかった料理に箸をのばした。
「おつかれさまでしたー!」
「気をつけて帰れよー」
しばらくして宴会はお開きとなり、解散する。聡一は自転車通勤で比較的自宅が近いため、まとめられたゴミを持ち帰る役をかって出た。今日は飲むつもりだったので念のため自転車は置いてきたので、歩いて帰宅する。 皆に続き花見会場の公園を出ようとしたところで湯河に呼び止められた。
「相川さん!!!待ってください!携帯!!」
「あ、忘れてた」
写真を撮るため携帯を貸していた事を忘れていた。そんなに酔っていないつもりだったが、案外アルコールはまわっていたのかもしれない。
「すみません、勝手に色んな方の写真も撮ってしまって」
「いいよ、別に容量余ってるし」
「あ、相川さん俺の連絡先教えるので、後で写真送ってください」
「あー・・・」
聡一は手に持ったゴミを見て悩む。自宅が近いとはいえ意外と多いゴミを1人で持って帰るのも少し寂しい気がした。普段なら特に何も思わないが、アルコールが入っているためか感傷的な気分になりそうだと。
そして何よりこの場で湯河の連絡先を自分の携帯に入れる作業と後で写真を送るというのが面倒くさく思えた。そういった操作全般が聡一は苦手なのだ。
「湯河、この後用事なければ俺の家こないか?近いからさ。画像送ったりするの、あー、なんていうかめんどくさいからお前やって」
あとこれ持ってと、ゴミを差し出す。湯河はいいですけど、とそれを受け取った。
「相川さん酔ってますね…」
「そうか?」
「はい…普段自分で何でもこなすタイプじゃないですか………なんかその……甘えられてるみたいで可愛い…」
最後の方は声が小さく聴こえなかったが、とりあえずゴミを持ってくれたので聡一は満足しそのまま歩き出した。
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