35 / 108
許さない。Ver.優斗
何か、礼とケンカ?してた奏は千聖を連れて帰っちゃったんだけど、昨日は千聖も、奏も来なかった。
もぅ!!礼を宥めるのすっごく大変だったんだからね!
何度電話しても、メールしても返事ないし。
それにその時思ったけどぉ、俺ぇ奏の連絡先とか知らないなぁって。何人かの女子に聞いてみたけど、教えてくれなくってって感じだったから早々に諦めたけど。
「きゃ!奏くん!」
ピクっと反応してしまう。
バッとドアの方を見ると奏と案の定千聖も入ってきたんだけど………………。
考えるよりも先に走り出すってこの事だ。
「千聖!!!」
千聖の肩に手を置いて話しかけるけど、俺を見てニコッと笑うその顔が逆に痛々しかった。
俺が来たことで千聖の横にいた奏は少し離れて、俺達のことを見ていた。
「奏!」
千聖を背中側に持ってくるようにして、キッと睨みつける。「うっ」と言う千聖の声が聞こえて尚更腹の中で何かが暴れ出すようだ。
千聖は優しい。
人の幸せを願える、そんな奴だ。
自分が傷ついても果敢に人の為に戦える、たとえ褒められたりしなくてもそれをなんとも思わない。
もし、そんな千聖を、利用しているなら
「許さないって言ったはずだけど?」
睨むことはやめない。周りが普段出さない俺の声や表情にびっくりしてざわざわしだした。
千聖も後ろでやめろと言ってるが声はガサガサで俺の腕を掴む手も弱々しくて、とてもじゃないけど大丈夫とは思えない。
「…………。」
「俺は許さない。」
まだ千聖と話したこともない頃
「ゆーとって女みたいだなー」
「女だ!女!おーんーな!」
今思えばくだらなくって取るに足らない思い出だが、当時の俺にはそうではなかった。
くすくすと周りまで笑い出すのはとても悔しかった。
母親譲りの顔立ちで小さい頃からよく女の子に間違われてきた。
自分は男なんだっていうプライドなのかな?
「違う!僕は男だ!」
と反抗してはさらに周りの女コールを熱くしたし、反抗すればするほど無駄なのに言われっぱなしな事が嫌だと言うガキだった。
周りは全員敵に見えたし、頼れる人はいなかった。家族ですら母さんが死んで1人だけ母さん譲りの俺のことを「優斗は女の子みたいで可愛いなぁ」と誇らしく言う。
自分一人で抱えていくのだとずっと悩んでいた。誰も分かってはくれないのだと。
それでも我慢することも、許容することも出来なくて、「僕」を「俺」に変えたり、服を全部寒色系統にしたり色んなことをしていた。
「ゆーとのおーんーな!」
「俺は男だ!」
「ゆーちゃん!ゆーちゃん!」
「ゆーとだ!」
「ワハハ、名前もおーんーなー」
みんなからからかわれて泣きそうになった時、すっと綺麗な声がした。
「優斗が女なら、俺もだな。
俺、名前千聖だから……。」
シーンと部屋が静まり返った。
一瞬何を言ってるのか分からなかった。
「……ち、千聖も女ー!」
「「「おーんーなー」」」
それから千聖は俺よりも酷い女コールを受けていた。千聖も小さい頃から可愛い顔をしていたし、皆はただ俺の方が小さくて無口そうな千聖よりからかいやすかっただけなのだろうけど、
千聖が自分から言ってしまえば俺よりも酷くなるのは必然だった。
千聖は俺の所に来て、
「優斗は誰よりもかっこいいと思うよ。
この前おばあちゃんの荷物持ってあげてたよ
ね。あいつらじゃ絶対出来ないよ。」
と、少しはにかんで言った。
それが俺には完璧だった。
自分が苦しんでいることに気づいていたこと。
加わらないにしても無視していればいいのに自分から助けてくれたこと。
話したこともないのに俺のいい所を見つけてくれたこと。
自分には何の利益もない、むしろ悪目立ちして、からかわれているのに俺に笑いかけたこと。
周りの奴らなんてちっぽけだと思わせてくれたこと。
何よりも、怖くて、嫌で、強いと思っていた奴らなんてちっぽけなんだ。
それから俺は前みたいに反抗しなくなった。
千聖も反論なんかしないで、そんなことやってて楽しいの?良かったね?みたいな感じでみんなをやり過ごしていたし、そんな俺たちを見てみんなはだんだんとからかうことを辞めた。
俺と千聖はそこから急激に仲良くなった。
心が綺麗な千聖といるのは心底楽しかったし、自分が正当であるように思えた。
そして誓った。
千聖が傷つけられるなら、俺は許さない……と
「……俺は、奏を許さないよ。」
ともだちにシェアしよう!