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話さなきゃ。

俺は奏を許さないよ シーンと隅まで静まり返る。 何があったかなんてことが気になったとしても、この空間で声を発するのはいけないことだと何かが伝えているのが分かるのか、誰も何も言わなかった。 優斗は許さないって言ったはずだと言ったけど何のことなのかが分からない。優斗は基本的にフレンドリーだし、あまり怒ることはないのに 皆が奏と優斗に注目している 先に口を開いたのは奏だった。 「……んー?そげんはらかかんでーな、 」 奏は首を少し傾げて優斗と視線を合わせるようにして言った。まるで駄々をこねる子どもを相手にするかのような雰囲気をまとって 「てめっ!」 「ぁっ、ゅ、待っ…………ぅっ」 殴りかかろうとした優斗を抑える時、肘が腹に当たって猛烈に痛かった。 「え!?千聖!大丈夫!?」 「ぅん。」 「帰るわ。」 そう言って奏は教室を出てしまった。 待ってと言いたいけど、きっと待ってはくれない。そう思うと、心臓がズキズキする。 声は出なかった。 「…………千聖。あと、優斗。僕さ、すごくお腹痛くて、保健室連れてってくれない?」 何故か後ろには礼がいて、イタタタターとお腹を押さえていたんだけど、………………嘘だ。 いつからいたのかが気になるが、礼がいることに気づけないほど余裕がなかったんだと礼を連れて…………とゆうかむしろ連れられながら思っていた。 着いたのは渡り廊下だった。入学式以来通ってなくて、何となく懐かしい。 「千聖。あいつが好きなの?」 唐突に言われてドキッとした。渡り廊下から景色を見ていたのを礼と優斗に視線を移す。交互に見ると2人とも真っ直ぐ俺を見ている。 「………………うん。好きだよ。」 「何で!?酷いことされたんだろ?」 「うん。」 「それにあの態度!」 「礼、落ち着いて」 「うん。………………俺に好きだって言ってくれたんだけど、俺の好きは信じられないみたいで………………。」 「「はぁ!?」」 「多分何かあるんだよ。奏にも理由が。」 「何でそんな奴のことが好きなんだよ!」 何でって。それは 「優しいんだよ。確かに酷いことされたし、許せないって思ったりもしたけど。でも、俺が大切なんだって分かる。何より目が優しい。話を聞いてくれる時も見ていてくれてる時も。」 「……そんなの、他の奴だって」 「……れぃ。」 礼はとっても悔しそうで、優斗も泣きそうになっていた。 「そうだな。礼も優斗も皆も優しいよ。 けど、なんだろ、何かほっとけないんだ」 「………僕達のことはほっといてもいいって?」 「違うよ。礼も優斗も何かあれば絶対力になるよ。無理なことでも何とかする。」 優斗はもう涙を流していた 「…………知ってる。僕は千聖に救われたから」 「俺も。」 「俺も2人に救われてきたよ。 心配してくれてありがとう。………でも、」 もういいんだ。と言いかけて礼が被ってきた 「……千聖はこのままでいいの? 千聖があいつにぶつからないのは優しさ? それとも怖さ?僕と優斗を救ってくれたの はぶつかってくれる千聖だよ。」 「……礼。」 「行きなよ。きっとあいつも救ってやれる」 「……うん。」 そうだ。話さなきゃ。 自分で自己完結したって意味が無い。 奏に聞かなきゃ。どうしてなのかって。 俺には人の人生に踏み込むなんて出来ないって思ってたけど、 ぶつからなきゃ分からない! ありがと。礼。優斗。 奏がどこに行ったかなんて知らないけど、俺は始業のチャイムを聞きながら、痛みと一緒に走っていった。

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