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許さない。Ver.礼
「礼。良かったの?だって、礼は」
「優斗。僕さ、ほっといてもいいの?なんて卑怯なこと言った。でも千聖は助けるのは当たり前って。そこに踏み込む迷いとか怖さとかないってことはあいつが何か根本的に違うってことなんだよ。」
「……礼。」
「てか、出てこいよ。」
「え?何が」
知ってる。視線はあったし、気配もしてた
伊達に音楽一家に生まれてなくてね
ちょっとは千聖にこいつが嫌いって言わせたかったけど、千聖は微塵もこいつを嫌ってない。
僕は別に千聖に不幸せになって欲しいんじゃない。幸せにしたい。たとえ自分が直接出来なくても身を引くとこで相手が幸せになるならそれでいい。それが愛だと僕は思う。
から、
「なんや、バレとるやん」
「え!?奏!?!?」
「お前あれ聞いただろ?」
「聞いとったよ。」
「何が不満なんだよ。…………それとも千聖は遊びですとでも言いたいのか?」
「……ちゃうけど」
「え?どゆこと?ねぇ?」
「「優斗黙って」」
「え、…………」
「カムラ、さっき俺が根本的に違うって言っとったな?それってなんやと思う?」
「は?」
「その根本的に違うものが俺の望んどるものや無かったらどうするん?」
「…………どういう意味だよ」
「もし根本的に違う部分が、俺の顔とか?財力やったら?どうするんってこと。」
プツンと何かが切れる音がして気づいた時には殴っていた。
「ちょっ!礼やめっ!!」
「離せ!優斗!!」
いててと言いながら立ち上がって何するんと言うこいつがムカついてしょうがない。
千聖が!?千聖が顔目当て?金目当て?
ぶざけんじゃねーよ
「ばかにしてんじゃねぇーよ!!千聖はそんなクズじゃない!!顔で決めるなら優斗でもいい! 財力なら俺だってある!でも千聖は自分の見栄とか!利益とか!そんな理由でお前を好きになったんじゃない。お前の優しさに惚れたって、悔しいけどお前の心が好きだって言ってたじゃねーか!お前!何見てきたんだよ!!」
「お前にどんな理由があるのか知らないし、興味もない。けどそんなふざけた理由で、千聖を苦しめてるっていうんなら僕はお前を許さない!!」
「わぁ!嘉村君はさすがね!今年のピアノコンクールの演奏をお願いしようかな!」
音楽室から戻り、クラスメイトに聞こえるように自慢する
「今回の曲は簡単すぎるよね
ト長調なんてありえないよね?
やりがいがないんだよな。」
僕は親が有名で偉いんだと勘違いしていた。何かにつけては人を見下し、そして自慢していた。もちろん、そんな奴と仲良くしてくれる人なんて居なくて、中学生活では話す人は誰もいなかった。屈辱だったし、本気で転校も考えた。けど親すら仕事だなんだと家を空け、姉も海外留学だなんだと僕の側にはいてくれなかった。
2年になって隣に千聖と言う男が来た。
アンニュイな感じで少し暗そうで。でもそんなことはどうでもいい。どうせ僕は嫌われるのだからと諦めてもいた。
音楽の授業のピアノ伴奏。慣れた先生は
「嘉村君、この伴奏お願いね!」
と真底楽しそうに言う。弾けば弾くほど嫌われるのにピアノに手を伸ばさないことは出来ない。それが僕が僕である最後の誇りだから。
音楽が終わって、教室に戻ると
「あーあー!カムラ君はいーなー!
音楽はいっつも評価最高だしー
親が有名な音楽家っていーなー!」
「それなー!俺も親が音楽家ならなぁ」
「ちょっとーやめなよーかわいそーあはは」
くすくすと笑い声が聞こえる。親が有名って何一ついいことなんてない。期待は上がり、評判を気にして、友達は居なくなる。僕の性格だって問題があったのは分かってるけど、どっちにしろこうなっていたような気はする。
1人の男子が外を向いて無視していた僕にムカついたのか、机を蹴ってピアノ君ーとバカにしてきた。
「ピアノ君はいいなー!ははっ」
「……礼。」
びっくりした。中学に入って僕を礼と呼ぶ人なんて誰もいなかったし、しかも礼と呼んだのは隣の暗そうな奴だったから。
「ピアノ弾けるって凄いな。俺も小さい時やってたんだけど、あれって難しいよな。きちんと続けてなきゃいけないし。あそこまで弾けるなんて相当練習したんだな。誰にでもできる事じゃないよ」
練習…………した。
僕が僕であるにはピアノだけだと思ったから。親の名に恥じないように居なくちゃいけなかったから。それが名家だから。
「でも、この前、体育一緒だったけど、覚えてない?礼とまたバスケしたいな。楽しかったから。」
「え…………。」
実は僕はバスケが好きだ。母親が楽器の次に買っくれたのがバスケットボールだった。ピアノは手を使うからという理由もあったかもしれないけど、それでも毎日の練習の合間に触るボールが好きだった。
ピアノを弾いていない僕を認めてくれる人がいる。これはこの時の僕にとってかけがえのないものだった。
それから千聖の入っていたバスケ部に入った。千聖の幼なじみの優斗とも仲良くなったし、クラスメイトとも少しづつ話せるようになった。
そして…………千聖を好きになった。
僕を「有名音楽家の息子」から、「嘉村礼」にしてくれた。唯一で優しい千聖を。
あとから聞いたら、ピアノなんて触ったこともなかったらしい。それなのに、あの時あんな風に言ってくれたことを僕は一生忘れないだろう
「僕は優斗ほど千聖と付き合いが長いわけじゃない。…………それでも幼なじみだから。悔しいけど僕は´友達`だから………………」
そう。僕はどう頑張っても千聖の『友達』
「だから、千聖を傷つけるのは許さない」
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