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え?俺やで?
「…………かな、で?」
起きると奏が隣にいなくて心細くなって泣きそうになった。ほんと自分がここまで泣き虫だなんて思わなかった。
「あ、千聖?起きた~?もう昼過ぎやし、ガッコは……えっか。昼ごはん出来とるで~持ってこよか??…………え?なんで泣きよる?体痛か?気持ち悪か?」
ガチャと音がして入ってきたのは、前髪を上げてる奏だった。なにそれ可愛い。
「……まだ泣いてない」
「泣く予定なんや?」
ニコニコ……いやニヤニヤと微笑む奏。
何か、それにしても奏ご機嫌だな。
「なんでそんなに機嫌いいんだよ」
「んー、ひ、み、つ」
「……きも」
「いただきます」
抱きかかえられて、リビングに移動する。もう恒例だよね。
そしておなじみの厚めの柔らかいクッション。
奏が作っくれたのは、鶏そぼろと卵と茸、野菜の餡掛けが乗ったこれまた凄く美味いうどんだった。…………もう、恒例だよ。
「ごちそうさま」
食べ終わってゆっくり冷ましながら、おなじみのココアを飲んでいると(もちろん奏はブラックコーヒー)不意に奏がとんでもないことを言った。
「あー、千聖。言うか迷ったんやけど……どうせ気にするやろし?言うけど。」
「ん?何?」
「アイツら……あの3人、もう千聖に手出せんけん、安心して。」
え?なに?
え?……あの3人?
この状況で3人って言った、ら
何とかコップを落とさずに保って、割らないうちにガラステーブルに置いた。
一気に血の気が引いて、クラクラして、目眩もしてきた。
「……はぁ、ふ、はぁ、…………な、何、なんで」
「……詳しくは言わんけど、ほんとに大丈夫やけん。絶対大丈夫やけん。」
力がこもった瞳とかっちりなのにふんわり回された腕の中ですら、不安と焦り、そして何より恐怖が押し寄せてくる。
「……でも、……はぁ、っ、」
「千聖…………信用出来ん?」
だっておかしいだろ?言ったのは名前だけ(しかも苗字)なのに……、と言うかそもそもいつ解決する時間があった?
疑問は疑問を呼び、頭はパンク寸前
「だって、…………そんなの、無理じゃん」
「え?千聖ー、俺やで?」
顔を上げると「何言ってるの?」と言わんばかりの不可解そうな顔をした男がいる。
……え?あ、うん。……え?
「ぶっ、……くくっ、」
「えー?なんで笑うん?」
なんで?何でだろ……
「何か、何でだろ、ぐすっ、奏が奏過ぎて、っ、ぅぅ、何か……」
ポンポンと心地いいリズムが背中に現れる。
「えー?今度は泣くんや?」
「……悪いかよっ」
「んーん。」
なんでだろう。絶対おかしいのに、意味わかんないし、納得出来ないのに。
大丈夫って何となく思えてしまう。
「いっつもいっつも、守れんくてごめんなぁ。でも約束する。千聖に嘘つかんし、絶対守る。嫌いなったりもせん。
千聖ば無理やりレイプしたり、好きやって言ってくれたとに信じんかったり、俺ほんまさいってーやった。他のやつに襲われとる時も助けてあげられんくて、頼りがいも無いかもしれん。
やけど、絶対守る。
何か色々あって全然違う。やっぱり千聖は特別やなぁち思た。
愛しとる、」
奏の肩の布は水分を含んで色濃くなる。うん、うん。俺も特別だよ。
暫くは声にならないから代わりに強く奏を手繰り寄せた。
黙ってそっと頭を撫でてくれて、背中を叩いてくれる。
「……っぅ、……お、れ、……も。」
長い長い時間をかけて同じ想いを共有する
「うん。」
奏に顔を両手で包まれて視線があう。
「ん、んんっ、ぷぁ、んんッ……ん」
何もかも大丈夫。そんな幸せの中に俺達は暫くいた。奏となら大丈夫。
俺達は確かに幸せだった。
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