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女々しい男
解せぬ。
バスケ部の問題は何故かあちら側から謝罪を受け、奏が殴ったことに対する申し出も無くなったらしい。何でなのかは分からなかった。
別にそれはいい。絶対あっちがわざとなのに、謝るなんてやだし、なんなら土下座して欲しいくらいだ。
じゃあ、何が解せないかって?そんなの、
「千聖~、卵焼きちょーだい?」
「はぁ?同じの持ってるだろ?」
「んー、でもそっちのがいい。
千聖のやつ甘いやつやけん、……俺のしょっぱいやつにしたけど、たまには甘いやつ食いたいやん?」
「…………まぁ、……いいけど」
「やりー、あーん」
「……あ、ぁーん?」
「んー……、……甘っ、」
うん!そだね!!あっっっっまいね!!!!
俺と千聖と奏は教室だと目立つからと、いつも美術室で昼食を取っていた。普通は鍵がいるんだけど、窓の鍵が壊れていて実質入り放題だった。
あのバスケ部問題の後、千聖は数日学校に来なかったし、メールしても大丈夫としか言われ無かった。あ、ちなみに奏も来なかった。Bクラの中では二人揃ってよく休むので様々な憶測が飛び交い、先生達に至ってはもはや、またか、だけの一言で済まされるという事態になっている。
この2人と居るのは苦じゃないが、たまに胸焼けしそうになる時がある。基本ふたりとも見た目がクールだから、そうでも無いように見えるが、実際2人だけじゃなかったらそうでも無いが、2人だけとか、人が居ても俺と礼とかだと無遠慮だし、千聖も人目を凄く気にするくせにその分2人になると嬉しいのか羽目を外す傾向にある。今まで思わなかったが千聖って……天然なのか?奏に至ってはもう悪ノリレベルだった。
「優斗、昼食べに行こう」
「んー!ごめん!!俺今日ちょっと用事あって!二人で食べててぇ?」
嘘だ。特になんの用もない。
てゆうか!今二人って言った時、ちょっと嬉しそうにしなかった!?!?さすがに怒るよ??
「……へぇ?そーなんだ?分かった。」
下手くそか!口角を維持できてませんけど!?
少し嬉しそうな千聖にツッコミたい気持ちを抑えつつ、俺は弁当を持って裏庭に向かった。
が、裏庭は意外と人が多かったので、塀と体育館の間の小道に行くことにした。
「……はぁ。なんだろ、別に気を使ってるとかじゃないし。……一緒に居るのが嫌なわけでもないけど……何か、なぁ……。」
実はここ数日特にモヤモヤしていた。千聖が男と付き合おうがそんなのはどうでもいい。千聖が幸せならそれで。
けどもっと頼って貰えるものだと思っていた。千聖は奏絡み(多分)で辛そうにしてることもあったし、怪我した日とかですら連絡しても繋がらないとか。……よく休むし。で、来た時に
「千聖ぉ!なんで休んだの?具合悪いの?」
「んー、大丈夫だよ。」
分かってる。嘘だって。辛そうだし、何か痛々しい。けど本人が大丈夫だって言うなら、無理に聞き出したり出来ない。
今まで幼なじみってゆうか親友?的な感じで千聖をサポートしてたつもりだったけど、何かそれはもういいよって言われてるみたいで、奏を見てると悔しいのは事実だった。
「……女々しいなぁ、」
俺は弁当も食べすに横なって腕を枕にする。
「…………あの、」
不意に声をかけられて顔を上げると、白っぽい綺麗な長い髪を横に結んだ、優しそうな人がいた。
「……。」
「あの、蚊に刺されるかも?俺もさっき刺されたんだ。かっゆいなぁ。……ふふ、ここで寝ると君もこうなっちゃうよ?……あ、でも蚊にしては早いかな?ただの虫かも?」
その人は手首らへんの小さな赤い膨らみを見せながら笑いかけてきた。
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