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伊織と凛と蒼空……先輩!
「……あれ?もしもーし?…………え?目を開けたまま寝てるの??」
その人は俺の目の前で手をフルフルと翳した。
「……あ、え?」
「あ、起きてた」
何となくタイプだった。それに近くに男が好きな男が多すぎて俺はその時、この人に惹かれていることを特に変だと思わなかった。
麻痺だ。
「あ、あの?誰?ですか?」
「え?あ、そっかー。いきなりごめんね?俺は2年の沢邑伊織。君1年だよね?」
そう言われたらネクタイの色が2年の赤色だ。
この学校では学年カラーがあって今の3年が黄色、2年が赤、1年が青だ。
「はぃ、おれ、桜庭優斗です!…………あ、あの!」
もっと話したくて、話しかけようとした時
「いーおりっ!こんな所にいやがった!!て、え?もしかしてカツアゲ!?」
「……伊織、1年生いじめるのは……ちょっと」
沢邑さんの後ろから沢邑さんの肩にガバッと腕を置く沢邑さんと同じくらいの身長だけど、少し色が黒くて色白で清楚な沢邑さんと違い、いかにもスポーツマンって感じの人と、その後ろに控えめに左肘を右手で持って、佇む少し根暗そうに見える人がいた。
「……凛重い。あと、カツアゲなんてしてないでしょ?話してただけ~」
沢邑さんはやれやれという感じで屈んで、スポーツマン風の人の腕を解いた。
「うっぉ!あっぶねー!伊織急に屈むなよ!」
「……凛、うるさい、」
「え!?蒼空どっちの見方なんだよ!」
「………………伊織?」
「あ??やんのか?」
「蒼空~、分かってるねぇ~」
ははは、と笑う3人を見て、またキュッと胸が締め付けられる。
仲良いなぁ
この数分でわかるほどの仲の良さ、絆?みたいなのを感じた気がした。3人で仲良くできるんだ…………。幼なじみとかかな?すっごい仲良いな。…………俺も俺もこの前まで。こう見えてたのかな。
「………………あ、の……」
「……え!?優斗君、……どうしたの?」
「あちゃー、伊織お前やっぱり何かしたんだろ?」
「えぇ!?してないよ??」
「伊織、俺今から凛の味方」
「えぇ!!寝返り早っ!」
「……優斗君どうしたの?どこか痛いの?…………ねぇ、泣かないで??」
泣、く?
そっと沢邑さんの指が触れて拭った時水分が分散されて、泣いているのだと気がついた。
「ぇ?……えぇ!?俺、泣いてんのぉ!?」
「あ、優斗君、意外と元気」
「うっお、うるせぇな、このチビ」
「気づいてなかったんだ?」
「チビじゃねーし!!……あ!先輩だったぁ!!…………ちっさくないっす!!!!」
「……ぶふっ……アハハ、優斗君面白いね!」
これが俺と伊織先輩、凛先輩、蒼空先輩の出会いだった。
「こっちは諏訪凛、でこっちが藤山蒼空(そら)、はい!優斗君俺は?」
「え!?、沢邑伊織!……あ、先輩!!」
「ん!よろしい!」
「なぁー?で、なんでこうなったん?」
「……伊織……この子……誰?」
俺の涙は止まって、伊織先輩がカーディガンで拭いてくれた。ドキッとしたけど、なんか嬉しかった。
「ふふ、急に泣くからびっくりした。大丈夫?あ、もしかしてこの2人が怖かった?大丈夫だよ~意外といい奴らだし」
伊織先輩は冗談風に笑いながら諏訪さんと藤山さんの紹介をしだした。
「俺達は皆2年のBクラなんだ~」
「えぇ!?Bクラ!?!?俺も!俺も!Bクラ!!!!!あ!!俺、桜庭優斗!!!!!!」
「っ……おぉ、久々にキーンってなった~」
「うるっせぇ!!」
「…………」
顔を歪める3人。そう言えばよく千聖と礼もこんな顔する気がする。多分気の所為。
ちょっとの間俺の声量問題についての議論があったが、3人とも不毛だと判断したらしく途中からは俺の1人演説になってしまった。俺よりも声の大きい小学校の頃にクラスメイトだった奴の秘話を聞かせようとした時
「で、お前こんな所で何してんの?」
と、唐突に諏訪先輩が耳をほじりながら聞いてきた。
何って、
「……別に……その、何も?」
「あれ?優斗君さっきまで声大きかったのに今は借りてきた猫みたい」
「なんだよ、ハブられてんのか?」
「ちょっと、凛。やめなよ。…………桜庭君?どうしたの??」
「俺らから逃げてきたんやろー???」
まるで春風みたいな綺麗に澄んだ良く通る声
顔を上げると余裕そうに微笑み壁に寄りかかって立つ奏がいた
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