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第3話

「えー、今日は転校生を紹介したいと思います」 教師の声に周りが期待と興奮でざわざわと話し出した。 この学園は外部入学生も珍しいのに転校生なんてもっと珍しい。 俺の時もそれなりに注目を集めて友達も多かった。 今は紫乃と始だけ、他の奴は俺に彼女が出来てから離れていった…意味が分からない。 始の話によると「下心と非リア充ばっかだったんじゃねーの?」という話だ、よく分からなかったが頷いておいた。 教室のドアが開き足音が聞こえると話すのを止めて皆そちらに集中する。 さっきのような騒がしさはないが内緒話のように小さくぽつぽつと話している声が聞こえた。 「え?根暗?」 「前髪長っ!」 期待していたような顔じゃなかったのか不満で溢れている。 うるさいな、この学園は顔が命なのかよ…そういう不満は自分の鏡を見てから言えよ。 嫌な空気になり雑誌を閉じて、ちらっと転校生を見た。 確かに顔の半分隠れるほど前髪長いが別にいいんじゃね?不潔なわけでもないし… 女子がいないから身だしなみがずぼらになってる奴なんて沢山いる、この前だって寝癖が爆発してる奴が登校してきて皆で大笑いしていたのに… それに小心者っぽいじゃん、あんまり転校初日で陰口言うと可哀想… 「うるさい黙れよ、お前らになんて言われても構わないけど…友達ごっこしに来たんじゃねぇから話しかけんなよ」 綺麗な低音で発せられた言葉に一瞬で陰口がピタリと止まった。 その場にいる誰もが口を開けたまま固まっている。 転校生の一番近くの前の席に座る生徒は一番後ろの席にいる俺でも分かるほどにガクガクと震えていた、睨まれたのか? 見た目と性格が凄まじく合わない転校生がやってきた。 まぁ友達ごっこしに来たわけじゃないと言ってるし、関わらないだろうからいいけど。 そして俺の隣の席を見る、周りを見ても空いてるのは俺の席だけだった。 「えーっと、席は…三条くんの隣かな」 「は?」 なんでよりにもよって俺の隣なんだ!?見た目で判断はしないがなんか怖そうだから関わりたくなかった。 関わりたくないって言っても隣になったら気に掛けなきゃいけないじゃんか。 名前が分からないからとりあえず根暗くんと呼ぼう、見た目で分かりやすいし…性格は根暗ではないようだけど… 根暗くんが近付いてくる、周りは俺と根暗くんを見ている。 注目されるの苦手なんだよ、時給が発生するわけでもないし…なんか損した気分。 根暗くんが席に座り俺をジッと見ている、な…なんだよ。 見返す事が出来ず目を逸らす、情けないが喧嘩なんてした事ないからいきなり殴らないでくれと心の中で祈る。 「三条?」 「…あぁ、三条(さんじょう)優紀(ゆうき)だ…よろしくな」 「…よろしく」 てっきり無視されるか「お前とよろしくしたくない」と言ってくるかと思って驚いて根暗くんを見る。 ジッと見つめられていて、表情が分からない。 なんだ、まさか喧嘩売られてる?…いや、俺は暴力はちょっと… 根暗くんが口を開くと同時に授業が始まり口を閉じた。 俺は今日はバイトないし、たまに始と紫乃と遊ぶかなと放課後のプランを考えていた。 ーーー 昼休みとなり、普通なら珍しい転校生に周りが寄ってくるがあの出会いの挨拶から誰も寄ってこない。 本人もそれでいいのは分かるが、ずっと高校生活ぼっちか? 始と紫乃が俺のところに来て、食堂行こうと教室を出ようとしたら担任に呼び止められた。 「三条くん、ちょっと待って!彼に校内を案内してほしいんだけど」 「…えー、俺腹減ってるんだけど」 「彼は理事長先生から特別扱いしてほしいと言われてね」 面倒な奴が転校してきたもんだな、仕方ない…購買寄って適当にパンでも買うしかねぇか。 始と紫乃も一緒に行ってくれるらしくありがたかった。 根暗くんと二人っきりは気まずすぎる、何話していいのか分からないし… 根暗くんの席に戻ると動く気配がなかった。 弁当を持って来てる気配もないし飯食わねぇのか? ただ根暗くんは耳にイヤホン付けて音楽を聞いていた。 声を掛けても気付かないだろうから根暗くんの前に立ち手を振ってみると気付いたのかイヤホンを外した。 聞く体制になったのはいいが、面倒そうにため息を吐かないでくれ。 「…なに?」 「いや、早くこの学園に慣れてもらうために校内を案内してあげようかと思ってさ」 「…は、随分と上から目線だな」 「あ?」 転校生のくせに上から目線はどっちなんだよ! 気に入らないな、コイツ…さっさと校内案内してもう担任のお願いなんて聞くか! 喧嘩は嫌だけどもうそんなのどうでもよくなるほどの根暗くんの態度に眉を寄せる。 俺と根暗くんが火花を散らしている時に紫乃は根暗くんの隙を見て根暗くんが持っているイヤホンを取り耳を近付ける。 紫乃は流行に敏感でだいたいの流行は分かっているから少しでも話の種になればと考えているのだろう。 さすが天使、生意気な奴でも優しさを持っている。 紫乃が聞いてるのに気付いた根暗くんはイヤホンを回収してズボンのポケットに入れる。

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