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第4話

「…勝手に触んなよ」 「ご、ごめんね…でもそれSTAR RAINの新曲?聞いた事ないけど好きなの?今凄い人気だよねー、僕も」 「…べらべらうるせぇよ、邪魔だどけ」 「わっ!」 「紫乃!」 せっかく紫乃が話していたのに紫乃を突き飛ばした。 近くにいた始が紫乃を受け止めたから怪我はしなくて済んだ。 しかし俺は友人が突き飛ばされて無関心でいるほど冷徹ではない。 教室を出た根暗くんを追いかけるために教室を飛び出した。 すぐに追いかけた筈だが、廊下を見渡しても何処にもいない。 だとしたら教室の目の前にある階段を使ったんだな。 上か下か…勘を頼りに下に向かって走り出す。 下には購買も食堂もあるから行く確率は高い。 しかし、何処にもいない…食堂も覗いたがそれらしい奴はいなかった。 走り過ぎてなんか腹減ったな…怒りもだんだん冷静になってきたし…紫乃置いてきちゃったから謝んないと… それで根暗くんは忘れて皆で食堂に行こう、それがいい。 校内案内なんてしなくたって自然と覚えてくるだろうと投げやりになりながら元来た道を戻る。 歩いていたら、空き教室の前を通りすぎた時誰かの声が聞こえた。 ここは人気があまりない廊下の端だし、通るのは俺と見回り警備員くらいだろう。 なんせこの場所は幽霊が出るとか何とか言われていて誰も寄り付かないし、そもそも廊下の端は使われてない空き教室しかなくて鍵も掛かってるから行く用事がある奴なんていない。 俺は何となくいつも歩いているだけで特に理由はない。 しかしそこに人はいる、しかも鍵が掛かってる筈の空き教室の中に……気にならない奴なんていないだろう。 耳をすませるとよりはっきりと声が聞こえた。 それは愚痴のような独り言のように感じた。 「…ったく、なんで俺がこんな格好しなきゃいけねぇんだよ…しかもアイツ俺の事忘れてやがるし…むかつく」 声からしてあの根暗くんか、何に怒っているんだ?誰か他にいるのか! もう怒りはないが紫乃には謝ってほしいから教室のドアを開いた。 「根暗くん、ちょっと話が…あ」 「っ!?」 しばらく使われていなかった空き教室だからかドアが重く思ったより大きな音を立てて開けた。 そしてそのまま呆然と根暗くん?を見つめて固まった。 ずっとドアを開けっ放しにしたのが気に入らないのか根暗くん?は俺の手を引っ張り教室の中に引き入れてドアをすぐに閉めて鍵を掛けた。 いきなり引っ張られるから転倒して顔面を地面に打った。 いてぇ…モロに鼻打った…覚悟しとけよ、根暗ぁ~ と、その前にこの状況を理解するために起き上がった。 静かな空き教室に慌てて疲れたのか根暗くん?の息遣いが聞こえる。 手に持つのは黒い髪、そして今の根暗くん?の髪型は教室の窓から反射する太陽の光でキラキラと輝く金髪… 前髪が隠れていて分からなかったがハーフなのか海のように深く青い瞳が鋭くこちらを睨んでいる。 根暗とはなんだったのか、恐ろしいほど美しい少年がそこにいた。 「……鍵掛け忘れた俺にも非はあるけど、勝手に入ってくんなよ」 舌打ちする顔も絵になる男なんて見た事ない。 着替えていたのかシャツ一枚で胸元が開いている。 着痩せするタイプなのか、ちゃんとしっかりした筋肉が付いていてまさに理想の美しい身体だ。 この学校だったら素顔見せてればあんな事言われなくて済むのに… いや、男にモテても意味ないか…でもカツラまで被って何を隠そうとしているのか分からなかった。 そこでなにか見覚えがありひらめいた、もしかして… 「…どうするか、正体バレたしマネージャーに電話……いや、コイツ一人だけだし口止めすれば」 「心配するな、誰にも言わねぇよ」 「は、どうだか…いい脅しのネタじゃねーか」 「俺は金は好きだが汚い事はしない、金運が下がるからな」 ちゃんと自分の力で金を貯めた方が使う時楽しいだろ? 紫乃の写真は微妙だが、紫乃にも小遣いあげてるしカメラとか高かったんだから自分の力だろう。 だから口止め料は絶対に受け取らないし、そういう金は好きじゃない。 まっすぐ根暗くん?を見ると分かってくれたのか何なのか分からないがため息を吐かれた。 正直根暗くん?は嫌な奴かと思っていたが悩んで必死だったと思ったら不器用なだけかもしれない。 根暗くんの手を両手で包み込むように握ると驚いた顔でこちらを見ていた。 「……な、なんだよ」 「実は親父もお前と同じなんだ、お前はまだ若いんだから今から病院に行けば何とかなる!…多分」 「……おいお前、何の話をしてる」 「いやだから、ハゲても大丈…ぶっ!!」 せっかく俺が慰めようとしていたのにいきなり根暗くんに肩を掴まれ押し倒された。 背中が痛い、何するんだ!と睨もうとしたら根暗くん?は倍以上に怒っているようで恐ろしい顔で睨んでいる。 顔がいいと怖さも倍増だなとブルブル震えながら思った。 ハゲって言い方が悪かったのか?…じゃあ髪の毛が抜け落ちて…とか言えばいいのか!? どっちにしろダメな気がする、若くてハゲたらそりゃああんな風に荒ぶるよな。 デリケートな話をどう言えばいいか分からない。 「誰がハゲだ、ハゲてねぇよ」 「…え?じゃあなんでかつら」 「うるせぇな、黙れよ」 ただ質問しただけなのにうるせぇは酷い…と思っていたら美形な顔が近付いたと思ったら唇に柔らかい感触がした。 あれ……この感じ、前にも何処かであったような… ……ってか俺、男にキスされてないか!?意味が分からない! 根暗くん?がいくら美形でも男とキスする性癖はねぇよ! 根暗くん?を引き剥がそうとしているが全然ピクリとも動かない。 それだけではない、舌が侵入してきて目を見開いた。 絡められ吸われ、根暗くん?は意外と経験あるのかど素人の俺の力が抜けるのは早かった。 くちゅくちゅとやらしい音が教室に響き、抵抗の手はいつの間にかすがるように根暗くん?の腕を掴んでいた。 一瞬なんでここに来たのか忘れそうになる。 …忘れちゃいけないのに、頭がボーっとする。 唇が離れて二人の息遣いが聞こえる、キスってこんなに激しいんだな…俺から彼女には無理だったかもしれない。 根暗くん?は濡れた唇を舐めた、男の俺から見ても色気が凄くてドキドキと鼓動が早くなる。 さっきまで怒っていたのに、今の根暗くんの瞳は熱がありずっと見られたら溶けてしまいそうだった。 「あの時もそうだけど、お前って本当にキス好きだな」 「…?そんな事より紫乃に謝れよ」 「あ?…しのって誰だよ」 「俺の友達、お前が突き飛ばした」 やっと思い出したのか「あー」と棒読みで言われムッとした。 顔が熱いけど、なんとか言いたい事が言えてホッと胸を撫で下ろした。 コイツのキスは何なんだ…頭がぐちゃぐちゃになって変になる。 もっともっとと貪欲になってしまう自分が怖かった。 ダメだ、早くここから出ないと…俺は男とキスしてこんな感情を抱く筈はない。 ……普通に女の子が好きなんだ、今までだってこの学校に染まった事はない。 でも今押し倒されてるし、力が出ないのはなんでなんだ? それに童貞には刺激が強すぎるんだよ、大人のキスが怖い。 「アイツが勝手に俺のに触ったから悪いんだよ、関わるなって言ったのに」 「はぁ?紫乃はお前と友達になりたくてなぁ」 「友達なんていらねぇよ…でもまぁ、前払いでご褒美くれんなら、謝ってもいいぜ」 うわ、すっげぇ俺様だな……前払いって何すりゃいいんだ?金は払わないぞ。

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