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第68話

寮の部屋に入るなりドアに身体を押し付けられ唇を重ねた。 静かな室内でくちゅくちゅと舌が絡み合う音が響く。 力が抜けた指から滑ったカバンが玄関に落ちる。 角度を変えて夢中になりお互いの熱に浮かされる。 唇を離すと飛鳥の唇が赤く濡れていて、それがとても妖艶に見えた。 飛鳥からも俺がそう見えるのか男らしく微笑み涎の跡を親指で拭く。 「…ずっとどうしようか考えてた」 「………決まったのか?」 「おう、今日は優紀をとことん甘やかしてやるよ」 甘やかす?どういう事だ?具体的な事を言わないから想像出来ず首を傾げる。 飛鳥に手を引かれいつも強引に引っ張るくせになんか妙に優しく触れてるだけで力が入ってない飛鳥の指先に戸惑う。 汗掻いたし先に風呂に入りたいと言うと当然のように「じゃあ入るか」と飛鳥も一緒に入るという口振りだ。 まぁいいけどな、何度も入ってるし…いやじゃないから… 着替えを用意してから風呂場に入りお互い見慣れた裸になる。 シャワーヘッドからぬるめのお湯が流れる。 夏は暑いけど水だと風邪引きそうだからこのくらいがちょうどいい。 そして俺はこの状況をどうしたらいいのか戸惑っている。 「…あ、あのさ飛鳥」 「どうした?痛かったか?」 「…………いや、痛くはない…むしろ気持ちいい」 「そうか」 会話が続かず、そこで会話が途切れてしまった。 いつも風呂に入るとエロい雰囲気になったし、さっきだってその気になるようなキスをしたんだからてっきりそうだと思うだろ? しかしいざ入ったら何故か飛鳥に髪を洗ってもらっている。 ……なんだこれ、これが甘やかすという事か。 飛鳥の長い指先が髪を撫でてくすぐったい。 飛鳥にバレないように両手で前を隠し、身体を丸める。 どうすんだよ、ちょっと反応しちゃったじゃねぇか。 まさか今日はしないつもりか?禁欲させたから俺に復讐とか? 自分から誘うのは恥ずかしいが、うーん…飛鳥の考えが分からない。 「優紀、流すぞ」 「お…おう」 飛鳥のシャンプーは気持ちよくて、髪に付いた泡を流される。 次は身体だな、と妙に色っぽい声で耳元で囁くから期待に胸がドキドキと早まる。 そして俺は今、湯船に肩まで浸かって暖まっていた。 …いい湯だな…ハッ、つい年寄りな事を考えてしまった!いやいや違うだろ。 数分前までは身体を洗うという名目でいろいろな事をするかと思っていたが、普通に身体を洗われた。 丁寧に指先まで洗ってもらうなんてまるで何処かの国の王様みたいだなとボーッと現実逃避をした。 俺が感じる場所にはわざと触れていない、身体を洗われて俺が反応してるのに気付いてる筈なのに… そして今飛鳥は自分の身体を洗っていた、俺はそれを湯船の中から見つめていた。 お礼に俺がやってやると言ったが今日は俺を甘やかすと拒否された。 もう十分甘やかされたから普通の飛鳥に戻れと目で訴えた。 俺ってちょっと強引な飛鳥の方がいいんだな。 「優紀、今は甘やかし期間だからそんな顔してもダメだ」 「……そんな顔って何だよ」 「いじめてほしそうな顔」 飛鳥に笑われ顔を赤くする、飛鳥より俺の方が欲求不満なのが不満だった。 ふてくされていたら飛鳥が湯船に入ってきた。 いくら普通の家庭の風呂より少し広くても、大の男二人だとやっぱり狭いな。 飛鳥の足の間に座り後ろから抱き締められる。 こんなに近くにいるのに深くまで繋がれないのか。 飛鳥の手を強く握ると応えるように抱きしめる力が少し強まった。 「…飛鳥、もう出よう」 「我慢出来なくなった?」 「うん」 耳元から聞こえる甘い誘惑に素直に頷いた。 飛鳥にそういう意図があったのかは分からないが、俺は飛鳥にもたれかかった。 頭を撫でてくれるその手は優しいけど、俺が欲しいのは… 飛鳥は耳元で吐息混じりで囁いた、今の俺にとってはそれだけで興奮してしまう。 「……まだ甘やかし期間だからな」という声は悪魔のように感じた。 まだこの甘い地獄が続くのかとため息を吐いた。 風呂から上がり、服を着て飛鳥と部屋に向かう。 また脱ぐのに服は必要かと疑問だったが飛鳥は脱がすのも楽しみだと言う。 ……ちょっとだけだけど、俺も分かる気がする。

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