67 / 82

第67話

「…えっと、なに?」 「だ、だから俺とキスっさせてやるって言ってんだよ」 聞き間違えだったらいいな…はっきり聞こえたけど… そう思ってまた聞いたがやっぱりそうだった…しかもなんか偉そうになってるし… なんでそんなに上から目線なのか毎回不思議に思う。 俺は「無理です」と自分でも驚くほど冷めた声で言った。 そういうお願いは全面的にお断りしております。 ……なんで最近こんなのばかりに会うんだよ。 「何でも聞いてくれるんじゃないのか!?」 「そんなお願いされるなんて普通思わないだろ!」 せいぜい昼飯奢れとかそんなのだと思ってたんだよ。 この学校はそういうのが多いからって普通警戒しないだろ。 物好きなのは飛鳥ぐらいだと思っていたんだからな。 ……まぁ変な盗撮魔がいたけど、あれは特殊だと思っていた。 とにかく俺は飛鳥がいるから無理だし…いなくても無理だ。 キスはやっぱり自分が心から愛しいと思う相手にしかしたくない。 「俺、恋人いるから無理だ」 「こ…恋人?……………俺より顔がいいのか?」 苦い顔をして古城は諦めが悪い事を言っている。 正直に言うとそうだな、でも俺は顔で選んでるわけじゃないからたとえ古城より顔が悪い恋人でも浮気はしない。 「そうだな」と軽く古城をあしらい古城の腕から逃れようとしたら突然抱き締められた。 調子に乗るな、いい加減にしろと古城を睨むと強く肩を捕まれ本棚に押し付けられた。 またこれかと自分の不運を呪う、なんで俺にこんな事するのか本当に理解できない。 でもいつまでも飛鳥に助けてもらうわけにはいかない。 …今度は俺が自分でなんとか切り抜けないと… 「離せ」 「た、試しにキスしてみれば分かる」 「そんなもん試したくねぇよ!退け!」 「うぐっ…」 俺はキスを迫り近付いてくる古城の腹を蹴った。 腹を押さえてうずくまる古城を冷めた瞳で見下ろす。 恋人がいるって言っても諦めないんじゃなんて言えばいいんだよ。 古城はあの盗撮魔と違って、あまり悪意がなさそうだから困るとため息が漏れる。 古城は何とか身体を動かし俺を涙目で見上げる。 そんな強く蹴ったつもりはなかったが痛かったか? 俺は古城と目線が合うようにしゃがむ、今の俺に出来る事はこれくらいしかない。 「……さん、じょう」 「古城、お前が俺にそういう目で見なくなったら昼飯奢ってやるよ」 古城は悪い奴ではないと思う、だから俺の事をきっぱり諦められたら友達になろう。 俺が何を言っても諦めそうにないから俺からはもう言わない。 ただ、個人的に会う事はもうないだろう…また勉強を教えてほしいと言われたら誰かを連れてきて三人でやるかもな。 俺は弱々しく「待って…」と止める古城に背を向けて図書室を後にした。 図書室を出ると扉の横に寄りかかっていた人物がいた。 いつから居たんだ?こんなところで何してんだか… 「入りたければ入ればいいのに…」 「いや、お前がどうするか気になってな」 ニヤニヤと飛鳥は面白そうに笑って俺を見ていた。 俺がお前以外に靡くわけないだろうと俺も笑った。 俺達は並んで廊下を歩く、まだ明るいのに廊下は静まり返っていた。 むわっとした暑さが廊下に染み渡り暑さで汗が流れる。 寮はクーラー完備だから早く寮に帰りたい。 なんでこの学校夏にネクタイしなきゃいけないんだよ。 普通しないだろと不満そうにネクタイを外す。 ふと何やら痛い視線が気になり隣を見ると飛鳥が無表情で俺を見ていた。 「…何だよ、見えてないだろ」 「違う…ここ」 飛鳥はチラッと肌が見えるだけで厳しいからそう言うと飛鳥は突然胸を両手で鷲掴みしてきた。 いくら今廊下に人がいないからって止めろと飛鳥の両腕を掴む。 しかし飛鳥は引くほど真剣な顔で俺の胸を揉んでいる。 ……揉むほどねぇよ、バカ飛鳥…なにが楽しくて男の胸なんか… しかしわざとか……わざとだろうな、飛鳥にやらしく揉まれてピクッと反応してしまった。 これ以上されたらヤバいと危惧して飛鳥の頭に鉄槌を食らわす。 「いってぇな、なんだよ」 「それは俺のセリフだろ!何してるんだ!」 「…乳首勃ってる、アイツになにかされたのか?」 「されてねぇし!…これは、暑くて…」 なんか説明するのも恥ずかしくてもごもごと濁す。 すると飛鳥は散々堪能して俺の顔を見た。 「…帰るか」 「切り替え早いな」 「優紀の身体に直接聞いた方が早いしな」 そう言う飛鳥は揉むのを止めて俺の腕を掴み廊下を早足で歩き出した。 だから違うって言ってんのに、まぁ飛鳥の場合分かってるけど自分の欲望のままに動いてるんだろうなとは思う。 もう慣れてしまったけど…とため息を吐いた。

ともだちにシェアしよう!