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第1―9話

羽鳥はエントランスに現れた吉野の姿に目を剥いた。 吉野は白いモコモコしたチューブトップを着ている。 勿論、腹は丸出しだ。 シールか何かだろうが、臍ピアスがキラキラと光っている。 そしてチューブトップと同じ素材のショートパンツを履いて、白いニーハイソックスを履いている。 ソックスの脇には赤と緑のボンボンが付いていた。 そして白いアームウォーマーをしている。 頭にはウサギのカチューシャだ。 「お前…その格好どうした」 羽鳥が地を這うような低い声で訊く。 吉野は真っ赤になると上目遣いで羽鳥を見た。 「ア、アシの子達がさ~俺は病み上がりで何もしなくていいから、その代わりウサギさんになって下さいって言うから…」 「何でクリスマスにウサギなんだ」 「トナカイじゃかわいくないとか言ってた」 羽鳥は深いため息を吐いた。 柳瀬が吉野の画像を送って来ない訳だ。 柳瀬はこの不本意だがかわい過ぎる吉野を羽鳥に見せる気が無かったのだ。 その代わりにパジャマもどきの格好をしている女の子達を見せて、羽鳥をやきもきさせたかったのだろう。 羽鳥はコートを脱ぐと吉野の身体に被せた。 マフラーも外して吉野の首に巻き付ける。 「トリ?」 「馬鹿。そんな格好で外に出るな。 風邪を引く」 「でもトリが待ってるっていうから焦っちゃってさ。 あ、そう言えば書類って何?」 羽鳥が腕時計を見る。 「あと1分待て」 「へ?」 羽鳥は黙って時計を睨むように見つめている。 吉野は羽鳥の言ってる意味もやってる意味も分からないし、やる事も無いしで、自分の肩から掛けられた羽鳥のコートの前を合わせてもじもじしていた。 すると。 急に羽鳥に抱きしめられる。 「ト…」 吉野が羽鳥を見上げると、唇が重なった。 少し開いた吉野の唇の隙間から羽鳥の舌が侵入する。 羽鳥は吉野の舌に舌を一瞬絡めると唇を離して囁いた。 「メリークリスマス、千秋」 吉野の顔がぼぼぼっと赤くなる。 「ななななにっ…?」 羽鳥はやさしく微笑むと、吉野を力いっぱい抱きしめた。 「世界で一番最初にメリークリスマスって言いたかったんだ」 羽鳥の甘い言葉に吉野は耳まで赤くなった。 「じゃあ書類って…」 「そんなものは無い」 当然のようにアッサリ言われて、吉野はこれ以上無いほど目を見開いた。 「無い!?な、無いって…」 「仕方ないだろう」 羽鳥は吉野の身体に廻した腕を解くと、吉野の小さな顔を両手で包んだ。 羽鳥は忌々しそうに続ける。 「お前が柳瀬達とクリスマスパーティーをやるから…。 午前0時を過ぎたら、きっとメリークリスマスって言い合うだろうからな」 トリってホント意外とロマンチストだよな…。 吉野は羽鳥の甘い言葉にきゅんとしてしまう自分にも、甘い言葉以上に甘い行動を平然と行う羽鳥にも、照れ臭くて恥ずかしくて、それでも嬉しくて、自分も羽鳥の頬に触れた。 触れた瞬間ビックリした。 羽鳥の頬は冷えきっている。 「トリ、いつからここにいたんだよ?」 「ここには電話を掛けた時だ」 「…え?じゃあその前にどこかにいたの?」 「このマンションを出て右に進むと小さな公園があるだろう? あそこに30分前からいた」 「30分前!?何でそんな早くに…」 羽鳥は切れ長の瞳をフッと細める。 「早く来ていれば何かあっても対処できる。 千秋には絶対俺が一番最初にメリークリスマスって言いたかったから」 「トリ…」 「恋人がサンタクロースって昔から言うだろう」 そう言う羽鳥は嬉しそうだ。 吉野は自分の顔を包む羽鳥の手を掴んで外した。 「千秋?」 吉野は真っ赤っかになると、羽鳥の首に腕を廻し、背伸びをしてキスをした。 「ち、千秋…?」 驚いて目を見張る羽鳥から、吉野はぷいっと横を向いて言う。 「トリはサンタはサンタでも、あわてんぼうのサンタクロースだよ!」 羽鳥が嬉しそうにクスクス笑って、また吉野を強く強く抱きしめた。 「千秋、好きだよ。 メリークリスマス」 吉野も羽鳥の胸で 「メリークリスマス、トリ」 と呟いた。 ~fin~

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