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第3話
あなたと出会ってから一年近くたっても関係は変わらなかった。
曖昧で脆い関係。
あなたの恋人の口癖や仕草まで真似てみたら、あなたに見てもらえるかと思った。
でも、あなたは『君のままがいい』って。
馬鹿にしないでほしい。『そのままの僕』だから二番手なんでしょ。
でも、確かに『そのままの僕』の方がいいよね。
使い捨てのおもちゃに、一番手の身なりなんて相応しくないからね。
今日もあなたの家であなたを待つ。
今日で最後にするつもり。終わりにしに来たんだから。
髪形も、洋服も、硬水の種類まで真似しても君にはなれないから。
あなたは僕のことなんて見てくれないから。
この関係に未来はないと、僕自身が一番よく分かってる。
これは賭けだ。負けることなんて分かりきってるけど。
それでも、僅かな望みに賭けてしまうのはまだあなたが好きだからだろう。
「ねえ、あなたの首筋に噛みついて、消えない痕を残したらあなたは僕のものになってくれますか?」
あなたは何も言わずに出て行った。
きっと、恋人のところに行くんだ。選ばれた子のところに。
僕を捨てたその足で。
ぽろぽろと零れる涙になんの意味があるのか、僕には分からなかった。
でも、なにかを失った感覚だけはしっかりあった。
もう少ししたら、この止まらない涙も止まるから。止めてみせるから。
そしたら、ここを出ていくから。
今だけは、あなたの香りに包まれることを許してください。
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