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(16) Drain Away
なんで俺、ここにいるんだろう?
仕事に行くなんて言ったものの、こんな状態で手につく筈もない。
それどころか向かおうとすると、足がどうしても拒絶する。
でも、だからって……
(ここに来る事はないだろう)
なぜ来たのか。
自分でも分からぬまま、自分を責めている。
………来るんじゃなかった。
明け方まで二人でいた部屋は、なにも無い。
すっかりきれいに片付けられている。
布団も、枕も、全部。
なくなっている。
……当然だ。
時政様の寝室なのだから。
朝げをとっている間に、使用人がきれいに片付けたのだろう。
なにも無い部屋……
(俺、ほんとうに朝までここにいたんだよな?)
痕跡は皆無だ。
時政様と一緒にいた筈なのに。
昨夜の事は夢ではないのかとさえ思う。
いいや、夢なのだ。
夢であったから、涙も出ない。
こんなに悲しいのに。
憤りもない。
夢の出来事を本気で泣いたり、起こったりする奴はいない。
だから、夢なのだ。
悲しみなんていう、あやふやな感情……
いつかは薄れていく想いだ。
今は悲しくても、この悲しみはやがて薄れ、忘れていく。今と同じ悲しみをずっと、永遠に持てはしない。
持つ事さえもできやしないのだ。
人間は………
こんなあやふやな感情に、縛られたくない。
縛られるくらいなら、逃げてやる。
逃げてなにが悪いんだ。
(こんな想いから……)
なのに
「……みつ輝」
彼は逃してくれなかった。
背後……
ドキンッ
声に鼓動が串刺される。
どうして、あなたは来てしまうんだ。
(どうして………)
涙が一筋、こぼれ落ちた。
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