21 / 21
(21) 四季彩の音色 【完】
桜の樹の下
いつもより少し近くなった枝に、手を伸ばした。
応えるように、そっと……
優しい花びらが、ひとつ
ふわり
指の間を擦り抜けて、時政様の肩に積もった。
風が流れて
ふわっ
空の青に、花が舞い上がった。
薄紅の吹雪が踊る。
雫のように
雨となって
雪となって
桜花が舞う
四季彩 の音色を奏でている。
どんなライスシャワーよりも優しく降り注ぐ、花びらたち………
時政様の目にも映っている。
いま一瞬の光景を
俺たちは共有している。
幸せという気持ちを、いっしょにつくってるんだね……
(あ、そういえば)
「俺、まだ聞いてない」
「なにをだ?」
桜を映した時政様の瞳が問いかける。
「プロポーズの言葉」
ふわりと桜が舞った刹那に、チリッと耳たぶを噛まれた。
「昨夜、伝えただろう」
舌が耳のひだを舐める。
「聞いてなかったのか?」
「ヒャっ」
お仕置きだ……とでも言うように。
耳の裏を舐めて、耳の穴をつつかれて、チュっと音を立てて吸われてしまい、思わず甘美な声が漏れてしまった。
(俺、忘れちゃった?)
大事なプロポーズの言葉
どんなに記憶を手繰っても、思い出せない。
(いいや、ちがう!)
思い出せないんじゃなくて、言われてないんだ。やっぱり!
こんな大事なことを忘れるわけないから。
「時政様」
「……ん?どうした」
「その……プロポーズの言葉、昨晩のいつ言ってくれた?」
首筋にキスした時政様が、あぁ……と吐息を落とした。
「つながっている時だ」
………………
………………
………………
「なーッ!!」
なに考えてんだーッ。
この執権はー!!
「覚えてる訳ないじゃないかーっ」
「なにを言う?何度もしっかり、うなずいていたぞ」
………………俺が?
聞きたくない。
イヤな予感しかしない。
(聞きたくはないが~)
一応、聞こう。
大事なことだし。
「『イかせて……イかせてくれたら、なんでもするから』……と私にすがって、泣きついたではないか?」
なんっちゅうオカルトプロポーズだァァァー!!
ほぼほぼ脅しだろう。
(時政様のプロポーズを断る余地は、俺に与えられていなかった)
皆無だ。
(………やられた)
悪徳執権に、すべて持ってかれてしまった。
卑怯で卑劣、予測の範疇 を遥かに凌駕 している。
俺には決して想像もできない、なんという冷酷で残忍な手口なのだろうか!
(それでも俺は……)
時政様を嫌いになれない。
俺も結構、やられてるよね。
「……可愛いぞ」
ドキンッ
心臓が鳴る。
フゥっと春風のように……
吐息が髪を梳いた。
「……昨夜も」
可愛かったぞ
「両脚で私をホールドし、涙目で懇願して、腹まで反り返った淫らな雌しべを震わせるお前の痴態は、一生忘れない」
なァァァァァーッ!!
なんてこと言うんだァッ。
(この口はッ)
「お前の」
「うるさいっ」
もう喋るな!
こんな口は塞いでしまえ!
俺の唇で、時政様の唇を蓋してやる。
(……あとで、も一回言ってもらうからな?)
プロポーズの言葉
それまで、俺はお預けだ。
深く、深く
口づけを重ねる。
舌を絡ませて
まだ足りない
もっと欲しい
人って貪欲だ。
幸せが欲しい
俺が幸せである以上に……
あなたに幸せになってほしい
あなたを幸せにするには、なにをすればいいのかなぁ?
答えはこれから導こう。
きっと、俺にしか解けない方程式だから。
答えはたくさんあるだろう。
その一つ一つを、あなたといっしょに試していけたらいいな。
貪欲に、俺は求めるよ
幸せの解
俺たちの痴態を降り注ぐ花びらの御簾 が隠す。
正直、こんな時政様だから。
強引で、横暴で、目的のためなら手段は選ばないし。
でも、時々ひどく優しすぎて……
だから不安がない訳じゃない。
けれど
それは………
(幸せなマリッジブルー)
………つー事で♪
揚げ出し豆府が結んだ恋の行方は、めでたし♪めでたし♪
これから巡る四季彩 を、あなたの隣で重ねたい。
桜雨は止まない
―完―
ともだちにシェアしよう!