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 中学三年生の夏。俺、長谷川 零(はせがわ れい)は、U16 全国少年サッカー大会 県大会 本戦に所属しているサッカーチームで参加している。このトーナメント戦で優勝、もしくは準優勝をすれば全国大会に県代表で出場出来る。県大会の本戦となれば、会場も立派な施設での試合になる。歓声が大きく上がる中、DFが上げてくれたボールが、トップを任せられている壱に渡る。一緒に所属している幼馴染の高橋 壱夜(たかはし いちや)、幼い頃から俺は、”壱”と呼んでいた。 「壱!」 「零!」  壱にボールが渡たれば、自身がオフサイドポジションに居ない事を確認してから声を掛ける。俺に気付いた壱がボールを蹴ったので、そのボールの方向に俺は走り抜けた。壱がボールを出した位置は正確で、ゴールに目掛けてシュートをするには抜群の位置だった。   「れーい!」  相手チームのGK(ゴールキーパー)の横を通り、ボールは見事、吸い寄せられるようにゴールネットを打ち付けると、壱は片手を上げながら走り寄ってきた。 「喜び過ぎ。もう一点決めるぞ」  その上げている壱の手を、答えるように片手の平で、パチンと接触音を鳴らしながら打ち付ける。嬉しそうにテンションの上がっている壱に、思わず俺は呆れたように声を掛けてしまった。 「なんだよー、欲深いなー、零は」 「壱はすぐ油断するから、後半にやられるんだぞ」  シュートが決まれば、ボールは中央で相手チームから試合は再開される。俺達はポジションの位置に戻るため、そこに向かいながら話をしている。 「もう5点も入れてんだから、こっから返されることはないって」 「そういうのが油断って言うんだよ」 「へーい」  再開のホイッスルが鳴れば、壱の表情は先程とは打って変わって、顔はしまり真剣そのものへと変わる。俺達はボールを持っている相手チームへと走り出した。 ―1―  前半戦終了後、ハーフタイムのインターバル中、ベンチに戻り、座りながら水分補給をしていた。 「お前ら、少しは手加減してやれよ」  俺らの隣に座るこいつは、同じくサッカーチームに所属している暮井 渋基(くれい じゅうき)、ポジションはGK。 「渋基の出番は作らないよ」  ミネラルウォーターの入っている水筒を一気に飲み干し、壱は渋基に余裕の発言をする。 「壱夜がヘマしなければな」  こういう時に、油断をしている壱ほど怖いものはない。 「ヘマなんかしませーん」 「予選みたいなのはやめてくれよ」  それは渋基も判っているようで、壱に対して注意を促す。 「あー、あれか、ゴール手前でこけたやつな」  思い出せば、今でも笑える。勢いよく一人ゴールに向かって走っていた壱は、キーパーとの1対1にもつれ込んで、勝負の時。壱は物凄い勢いで、豪快に文字通り転んだ。転がりっぷりが豪快過ぎて、一瞬、試合が中断したように、静まり返ったあの雰囲気は忘れられない。 「……いや、あれは、靴紐が取れてたからで……」  その時を思い出したのか、壱は眉を引き攣らせながら、しどろもどろに言葉を漏らしていた。 「今も取れてるぞ、靴紐」 「え!?」 「うそ」 「零!!」 「ほら、馬鹿やってないで、後半戦始まるぞ」  ハーフタイム終了のホイッスルが耳に届く、俺と壱は目を合わせ、目線で合図を交わした。 「壱」 「ういっす」  この試合に挑む時の、壱の表情が好きでたまらない。 ―2―  県大会本戦、準決勝までトーナメント戦を勝ち続けたが、準決勝で当たったチームは、県内でもベスト4に入るチーム。うちのチームと同じく優勝候補の一つだった。試合は接戦、勝敗は自分たちの実力が出せたか、出せないかの僅かな違いだった。結果は0-1。残り5分で決められてしまった。 「…………」 「泣いてんのか?」  試合が終わった帰り道、チームのバスから降りて、自宅に向かう途中。壱は俯いて歩いたまま、一切口を開かない。 「泣いてない」  声を掛けると、漸く言葉は返って来た。その声は、弱々しく小さかった。 「泣いてるじゃん」 「泣いてないってば……うー」 「はいはい」  人一倍負けず嫌いな壱は、試合に負けるときはいつもグッと涙を堪えて居る事が多い。感情の表現も豊かだから、その感情を表に出しやすい。立ち止まってしまっている壱に、俺は宥めるようにその肩を、片手で抱き寄せた。 「零は……悔しくないのかよ」  壱はそのまま俺に寄りかかり、すり寄ってくると、涙ぐんだ目を見開かせ、俺に顔を向け問い掛けてくる。 「悔しいよ……」 「……だよな」  素直に言葉を返すと、壱は小さく言葉を漏らして、俺の肩に顔を埋めた。 「中学は最後だけど、U18があるだろ……、壱と一緒なら来年でも望みはある」 「あ……、あったりまえだろ! 来年は絶対に全国大会行くからな!」 「あぁ」  それは、俺達の来年への小さな希望で、一つの約束だった。この約束が守る事が出来なくなるなんて、この時の俺は思いもしなかった。 ―3―  壱との出会いは、幼稚園の時、俺の住んでいる隣の家に越してきた。壱も俺も一人っ子で、両親との三人家族。歳も同じだった為、同じ家族構成な俺らの両親は簡単に仲よくなった。 「ほら、壱夜。あいさつしなさい」 「…………」  ただ、最初の頃の壱は人見知りが酷く、母親の後ろから出てこなく、隠れている事が多かった。 「ごめんなさいね、人見知り酷い子なのよ」 「そんな事無いわよ、子供はこんなものよ、れーい?」  同じ歳だから、母親達は俺らを仲良くさせたいという気持ちで、一緒に遊ぶ機会を何度か作るが、壱が動かないのでほとんど諦めに近い状態だった。俺は母親に呼び掛けられるが、今回もそうだろうなと思い、庭でサッカーボールで遊びながら軽い気持ちで答えていた。 「んーー?」  その頃には俺はもうサッカーチームに所属していて、養成コースに通っていた。リフティングを数回出来る程度で、何度かしていると視線を感じて、母親たちの方に目線を向けた。 「…………」  その視線は、いつも母親の後ろに隠れて出てこない壱の視線だった。壱は母親の後ろから出てきていて、俺の家の庭を覗き込んでいた。視線の先は俺が手にしているサッカーボールにくぎ付け。 「……一緒にサッカーする?」 「する!」  あまりにもサッカーボールから目を離さない壱を見て、俺は思わず声を掛けていた。壱は嬉しそうに、初めて俺に向けて笑顔を浮かべた。その笑顔に俺は目を奪われてしまった。屈託のない、その壱の笑顔に一瞬で魅了された。  この後、壱は俺と一緒にサッカーチームに入りたいと、初めて母親に我儘を言ったらしい。初めて自分の意思でやりたいと言ってきたのが嬉しかった壱の母親は、俺の母親にすぐに言いに来たのを覚えている。 ―4― 「え? なに? お前も那智川高校受けんのか?」 「うん。そしたらさ、これからも高校でもチームでも両方で、零とサッカー出来るしさ!」  そう壱が言い出したのは、サッカーチームの方は大体の大きな大会も終わり、受験勉強の為、休会に入った秋だった。ノックもせずに俺の部屋に入ってくるのは、いつもの事だけど、俺は受験勉強をするために机に向かっていると、部屋に入ってくるなり壱は、そう俺に言って、当たり前のごとく俺のベッドに寝転んだ。 「え? 理由それ?」  俺は壱の言い分に驚いて勉強している手を止めて、ベッドに寝転ぶ壱の方へと、学習椅子を回転させ身体ごと目線を向けた。確か、この前の進路相談では、壱は西高志望だと言っていたはずなのだが……、いつそれを変更したのだろう。 「おかしい?」  思わず返してしまった俺の問い掛けに、壱は首を傾げて更に問い掛け返してくる。純粋に満ちたその瞳に、俺は吸い寄せられそうになるのを堪えながら、言葉を返した。 「おかしくないけど……」 「……けど?」  曖昧な返答になってしまった俺の返事に対して、壱は続きを急かすように言葉を被せてくる。俺はそのまま、暫く壱に目線を送ってしまい言おうか悩んだ末に、学習机に椅子の向きを直して壱に背を向けた。 「なんでもない」  けど……、の続きは、素直に言えば嬉しい。俺だって、これからも壱と一緒にサッカーを続けていきたい。一緒にサッカーをする機会が増えるのは嬉しい事だ。サッカーだけじゃなく学校も同じで、中学を卒業してもまたこれからも、登下校を共にするだろう、この生活が変わらない事が嬉しいのだ。  前回の進路相談の時に、互いの志望校を知って、壱が俺に合わせたのだろう事実が嬉しいのだ。実際、俺も壱に合わせようかと悩んだくらいだったから、ただ俺はそれを行動に移せずに悩み続けていたら、壱は簡単に行動に移していただけだった。思い立ったら吉日の壱のこの行動力は、昔から羨ましく思う事が多かった。  まあ、今回は壱のその行動力に救われた事になるけど。嬉しい気持ちが、受験勉強の為にノートの上を走らせているシャーペンの芯を進ませてくれる。  ベッドで転がっている壱は、俺の漫画本を読み出しているけど、壱はいつ勉強してるのだろう……、志望校変更が可能だったのだから、まあ成績は射程圏内なのだろうとは思うけど、大丈夫かこいつ。 ―5― 「いっちゃーん、夕ご飯食べてくー?」  暫く、俺の部屋で壱はベッドに転がり漫画本を読み、俺は受験勉強をして、各々で行動をしていると、一階にいる俺の母親の声が聞こえてきた。 「食べてくーー」  この同じ空間に居るけど、各々の事をしているのはいつもの事だが、この母親からの問い掛けに返事を返す壱も、いつもの事だったりもする。当たり前になっているこのやり取りを耳にしながら、気にも止めずに俺は勉強を続けていた。  一階のキッチンからと二階の俺の部屋との距離で会話が続く、俺の母親と壱。 「今日はいっちゃんの大好きなから揚げよー」 「まま大好きーー」  ベッドで漫画本を読んだままで、俺の母親に返事をする壱がなんだか面白くて、俺は思わず壱の方に目線を移動させてしまった。 「……母さん、自分の息子間違えてないか」 「零のおばさんって、甘やかしてくれるから好きー」  俺が声を掛けるとベッドに転がっていた壱は、起き上がりそのままベッドに胡坐をかいて座り込んで、笑みを浮かべてそう言っていた。俺の母親は壱に甘い、甘え上手な壱も壱なんだが、とにかく甘い。壱の両親は共働きで、帰りは夜遅く、俺の家で夕飯を食っていく事は珍しい事ではない。壱が食べて行く日は、壱の好物が出てくることも多い。  本当にどっちが息子なのか判らない。 「あんまり甘やかさないように言っとく」 「えええええええ」  俺がそう言って、再び机へと向かうと壱は抗議かのような声を上げ、ベットに再び転がった。転がったのと同時に、壱のスマホが着信を告げ、俺達は再び顔を合わせてしまった。 ―6― 「あ、渋基だ、もしもし?」 「…………」  壱はスマホを取り出し、画面を見て着信の相手を確認すると、そのままスマホを操作して着信に出ていた。相手はサッカーのチームで一緒の渋基だったらしく、話を始めている。 「え? 今、零の部屋。今から? んーー、めんどくさい」 「…………」  チームを休会していても、こうやって連絡を渋基が寄越す事は珍しい事ではない、大抵は壱に対して連絡を寄越すのだが、大体が一緒に居る事が多いので、連絡が来ているのは知っている、壱の方に連絡をする理由も。話を始めている壱を他所に、俺は勉強を再開させるために机へと向きを直し、座り直す。 「聞いてみる……、零ーー? 渋基がな、新しいゲーム買ったからやろうって、ここ来てもいいか? って」 「ん? ああー、勉強してたのに」  来てもいいが……、それ、絶対俺も混ざらさせられるだろう、予測は立つ。返答に悩み、言葉を濁していると、壱は懇願するように俺に目線を向けてくる。 「息抜きも必要だって!」 「わかったよ、いいよ、呼んで」 「やった……! 渋基いいってよー、ほーい、待ってる」  結局は俺が折れる形になると、壱は嬉しそうに笑って、渋基にそう伝え通話を切っていた。 「渋基も暇だな、わざわざこっちまで来るなんて」 「自転車で来れる距離だしなー」  渋基とは学校は違うが同じ市内に住んでいる、距離にすれば自転車で行き来出来なくもない距離で、俺と壱で渋基の家に行ったこともある。ただ、二人で行くより、一人が行動した方が楽ではあるから、渋基がこっちに来ることが多い。チームを休会してるから、会う機会が減り、余計にこうやって遊ぶ事は増えていた。  だから、お前ら、いつ受験勉強してるんだ……。 ―7― 「なんで、今から行くって、言ってるのに寝てんのこれ」  渋基が俺の家に到着する30分の間に、壱は俺のベッドで寝てしまった。俺のベッドの上、どころか布団に綺麗に潜り込んでは、寝息を立てている壱を見下ろしながら、溜息交じりに渋基は言葉を漏らしている。 「寝かせないようには、してたんだけどな……」 「前に壱夜がやりたいって、言ってたゲームだったのに」 「残念でした」  俺はゲーム機本体を用意しながら、渋基と会話をする。勉強をしながら待っていると壱がうたた寝を始めたから、何度か寝ないようにと声を掛けていたが、その努力は報われず、気付いた時には壱は深い眠りに入ってしまっていた。 「余裕かましてる零が腹立つな」 「別に、余裕かましてるわけでもないけど」 「俺なんて、懐いてもらうために、色々物で釣ってるのに」  ゲーム機の用意を終えて、部屋に来て直ぐに受け取ったゲームソフトを起動させる。コントローラーを二つ出しては片方を渋基に差し出す、それを受け取りながら、渋基はテレビ画面の前の俺の隣へと腰を下ろした。 「なに? 策略だったわけ?」 「だって、ハンデありすぎじゃん? 家は隣同士で、幼稚園からの仲で……、俺なんて自転車で30分の距離で、知り合ったのは小学三年とか……、学校も違う……」 「時間とか距離とか関係ないと思うけどな……」  そう、俺じゃなく壱に連絡をしてくる理由はこれだ、渋基は壱が好きなのだ。もちろん、友達としてじゃなく、異性を想う気持ちと同じ好きなのだ。まあ、最初相談された時、俺はなんとなく気付いていたから否定はしなかったけど。それに、俺も渋基と同じ気持ちを抱いているから……。 「そういうとこが余裕かましてるって言うんだよ」 「そうなのか?」 「逆の立場でも、零には勝てる気しないけど……な」 「どれだけ自信ないの、お前」 「うるへー」  本人が寝ている脇で話す内容ではないだろうけど、俺達はゲームのオープニングを眺めながら話をしていた。 ―8― 「あ、負けた」  渋基が持ってきたゲームは最近発売された、巷で人気のあるゲーム。前に壱が確かにやりたいと、言っていたことは覚えている。小学生の頃から出ているシリーズの最新版。他の同会社で出しているキャラクター達同士を使用して、格闘するゲーム。 「……お前、今のわざとだよな」 「俺に勝ったじゃん、渋基」  テレビ画面では、俺が使用していたキャラが倒れていて、渋基が使用していたキャラが勝利のポーズを決め、大きくyou winnerの文字。 「手抜いたよな……今の」 「抜いてないって」  今日初めてプレイしたゲームで、器用に手を抜いて相手を勝たせるという事が出来るわけがない、手を抜いてはいない。ただ、今回使ったキャラの使い勝手を試していたのは確かだけど。 「なんか楽しそーーー」  その時、背にしていたベッドの方から声が聞こえて来て、二戦目をしようとしていた俺と渋基は、そちらへとコントローラーを手にしたまま、振り向いていた。 「ん?」  振り向くと壱がベッドに俯せになり、こちらに向かって顎に手を付き、転がったままで膝を曲げ両足を交互にリズムよくばたつかせていた。 「なんで、起こしてくれなかったんだよ」 「だって、あまりにも気持ちよさそうに寝てたから」 「起こせよ」 「ごめんって、拗ねんなよ」 「拗ねてないし」  そんな壱に渋基は、ベットに転がっている壱の隣に座り、宥めるように言っていた。宥めるようにというより、ご機嫌をとるようにと言った方が正しいかもしれない。本当、壱に甘い奴らが多すぎる、俺の周りの環境は。  俺は壱と渋基の会話を耳にしながらも、そのまま一人でゲームを再開させていた。さっきの試用で大体の使い方は判った、このキャラが一番使いやすいかもしれない。 「……ってなに、零一人プレイやりだしてんだよ!」 「うわ、しかもハイスコア出してるし、やっぱりさっきのは手抜いたな!」  一人でプレイしていたことに漸く気付いた壱と渋基は、テレビ画面の前に座っている俺の両隣に来ては、騒ぎ始める、距離が近すぎて騒いでいる二人の声が頭に響く。 「もー、お前らうるさい、二人でやれ、俺は勉強する」 ―9― 「おかしい、これは絶対におかしい」  高校入試の合格発表が終わり、三人共に第一志望校への合格を決めての週末。祝い会と称して俺ら三人はカラオケ店に集まった。そこで言い出したのはマイクを手にして、そのマイク越しに言い放つ渋基。 「なにが?」  俺と壱は頼んだスナックセットに手を伸ばしては、同時にマイクを持つ渋基へと返事を返していた。マイクをテーブルに置くと、俺と壱の座る間にむりくりと入って、座り俺らの顔を交互に見る渋基。 「なんで、お前ら同じ高校受けてんだよ……」  壱の志望校が変わってしまっていた事に、受験日まで知らなかったらしい渋基は、抗議の言葉を述べている。壱……、教えてなかったのか。まぁ、故意はないのだろうが、ちょっと渋基が不憫過ぎる。 「壱が真似しただけ」  俺は間違った事は言ってない。壱が突然言い出して、志望校を変えたのは事実の事だ。中学が違う渋基には、壱から聞かないと知る由もなかったという事だろう。 「壱夜、前に西高受けるって言ってたよな!」 「あ、うん。零が那智川高校受けるって言ってたから変えた」 「なんで零、教えてくれなかったんだよ!」 「俺、那智川受けるって言わなかったっけ?」  壱が教えなかった事を、俺に飛び火を向けないで欲しい。俺は聞かれなかったから、というか壱が言ったもんだと思ってたから言ってなかっただけだ。 「……聞いてた」 「ほら」  言われてる事に対して、おかしいところがないのは渋基も判ってるのか、納得したように頷きながら言葉を漏らす。 「二人共の志望校聞いてたけど……、変えたのは聞いてないぞ!」 「いいじゃん! チームでは一緒なんだからさ! 部活の方で渋基と対戦出来るの楽しみだなー」  壱は渋基に抗議をされていても、気にした様子もなく、カラオケの選曲を始めながら、その機械に目を向けたままで答える。 「お前らのツートップを、抑える自信がないから対戦したくない」  何を言っても後の祭りで、渋基は部屋のソファーに項垂れてしまった。 ―10―

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