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Ⅱ パンドラの匣②
さわさわ……
ざわざわ……
空から闇が降ってくる。
儚く柔らかに舞い落ちるのは、黒い雪
地上に積もる、解けない雪の名は……
羽
「春翔、集中しろよ」
「ヤアァんっ」
シャツの下に忍び込んだ手が、胸の小さな実を弄る。
「アっ、ハあう」
自分の声だなんて信じられない、甘い喘ぎがついて出る。
「今度は、俺も気持ちよくしてくれるよな」
「アはゥっ」
熱塊が欲望を刺激する。逞しい雄にこすられて、イったばかりなのに俺の熱棒がピュクって白い蜜を垂らしている。
ひらり……
空から、漆黒の羽が舞い降りた。
メロスの背中の向こう。
景色を黒く……羽が視界を黒く覆う。
「気になるか?」
口角を持ち上げた彼の瞳の奥、微かな波が揺れた。
音もなく……
羽が落ちる。
「俺が、地獄を統べる邪智暴虐 の王だったら……どうする?」
刹那。
ドオォォゥォォーンッ!
大音声が轟いた。
鳴動する。揺れる。大地がのたうつ。
「地震だッ」
「違う」
ぎゅうっと、腕 が俺を抱き寄せた。
「死者の足音だ。お前も聞いただろう。俺が甦る直前に」
じゃあ、あの地震は。
そして今、起こっているこの地震は。
「出るゼェ!」
バシャバジャバジャーッ
川面が水柱を噴き上げた。
「そこかッ」
巨大な尾が水面を引き裂いた。
(蛇)
「メロスっ」
メロスが走ったのは、水柱を噴き上げた蛇の尾の場所ではない。尾よりも離れた川上だ。
「俺を殺そうなど……」
跳躍する。
「百年早い!」
グビャアアァァァーッ!
獣の悲鳴が虚空を裂いた。
メロスの蹴りが、正体不明の黒い塊を薙ぎ倒す。
「メロス、カッケー!」
……全裸じゃなければ、もっとカッコいいのにな。
甲高い奇声を上げて昏倒したのは、漆黒の羽毛に覆われた化け物だ。
尾は蛇、頭は鶏。
「コカトリス如きが刺客とは、笑止」
……メロスは命を狙われている?
(メロスが本当に……)
地獄を統べる王だからなのか?
コカトリスの漆黒の羽に、真っ赤な……まるで血を垂らしたかのような刻印が浮かんだのは、その時だった。
刻印が示した数字は『7』
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