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温むあした

 心地よい響きがからだに伝わって、鼓動が響きへと寄り添ってゆく。夢うつつに、いつもより深い自分の寝息を感じていた。  挿入(はい)ったままのそこに手をやると、名雪(なゆき)の腰へゆるりと回された梢平(しょうへい)の腕に、名雪の腕がすれた。汗ばんだ名残りのある肌どうしはすぐに離れがたく惹かれ合う。  梢平の萎えた根もとに触れる。茂みの感触をくすぐるように指先を絡めれば、そこは角度を変えながら膨らんで、名雪のなかをずっしりと埋めた。 「はっ…ぁあん……」  名雪がいくらなかで大きくされるのが好きだからって、()れる時には勃ってなくちゃ話にならない。いくら梢平のそこが何段階にも大きさを変える名品でも、こんなふうに完全に萎えたところから始められるなんて、ふつうならありえない。たとえばそう、挿れたままお互い落ちちゃって、先に名雪が目を覚ます、という奇跡でも起きない限り。  始末もせずに寝落ちしたベッドの上は、互いのからだもふくめて、ずいぶん散々なことになっている。梢平の根もとをいじっていた指先には乾いて砕けた白い滓が無数にはりついている。名雪の脚のあいだを割って、萎えた名雪自身を押し上げている梢平の腿にも、乾いた体液が伸びている。炊飯器の釜の底に残るもろもろみたい――なんて言ったら、梢平はまた情緒がないと怒るのだろう。  いまや梢平のそれは、もうちょっとやそっとの身じろぎくらいでは抜けそうにないだけの芯をもっている。目を覚まさせないよう気をつけながら、腰にのせられた梢平の左腕をそっと解くと、自分の上体を起こし、かれの背を布団へと倒す。 「ひ、ぅう……ん……」  姿勢を変えたことでまたなかが抉られた。腰を落として挿入を深めれば、名雪の双玉が梢平の腿へとこすれる。まぶたをきつくつぶって、びりつく快感を味わう。梢平ほど立派ではない名雪のそこも、すっかり立ち上がって透明な先走りで尖端を光らせている。  背を軽く反らし、ちょうどよく屈折して名雪の股間をなぶる梢平の脚の上に右足を重ね、そろりと跨ぎ越す。  横座りのかたちになって流し目で見下ろした梢平は、すこやかな寝息を立てている。ついさっき名雪が目を覚ました時には二人、ぴったり同じリズムで呼吸をしていたというのに、いまでは名雪の息ばかりが乱れている。  対面から背面へ、背面から対面へと、騎乗位で交わったままからだの向きを変えるのは名雪の得意なプレイの一つだけれど、それは相手の視線ありきの、ストリップ的な――パフォーマンスとしての要素をたぶんに含むものだ。眠っている相手の上で行うのはすこし虚しい。  それでも名雪は、のどを反らしてあえかな声を上げてからだの向きを変える。  先ほどまでよりも体重をかけずには済まない体位だから、梢平もそろそろ起きてしまうかもしれない。上半身を倒して梢平の胸元へと頰を重ね、かれの顔を見上げる。髪の先の感触がこそばゆいのか、梢平の口元がゆるむのが、細いあご越しにほのかに窺えた。  寝る前に貪り合った熱はすっかり引いていて、だけど梢平の皮膚はまだ温かで、頰を寝かせれば、ぺったりと吸いつく感触があった。  ボーロとかビスケットとか、そういう懐かしい甘さを思い起こさせる、淡く明るいらくだ色に唇を寄せる。 「んうぅ……」  乾いた唇で小さな胸の先をくすぐってひっぱれば、梢平は鼻にかかった声を漏らした。  梢平はいい子だ。からだと顔がまあ見るからに好みで、名雪にしてみればそれだけで充分だった。一人暮らしの高校生なんて少なくとも卒業すれば引っ越すだろうし、たくさんの出合いがこの先にあるならば、十代の一時セックスに耽った隣人のことなどたやすく忘れてゆくのだろう。爪痕を残すのは――物理的なプレイとしてならともかく――趣味じゃない。と思っていたはずなのに。間違いなく思っていた、のに。梢平があんまりいい子だから、名雪はかれとの関係が終わることについて、うまく覚悟を決められなくなっている。  尖りだした乳首を舌先で圧してこすって、さらにふくらます。  その時、なかで梢平の精がはじけるのを感じて――同時に、名雪は布団へと背中から転がった。 「げ、やばっ」 「ひぁっ……んぅ……もー……急にからだ起こさないでよ」 「え、ええ?! ちょ、名雪さん大丈夫?」  まだ状況を正しく把握していないらしく、梢平は仰向けに倒れた名雪の顔を心配そうに覗き込んできた。名雪はすかさず梢平の後頭部へ指を絡め、自分の口元へとかれの耳を引き寄せる。 「どうせ夢精したと思ってびびって飛び起きたんでしょ。安心しなよ、立派な中出しだよ。わかる? なか、ぐちゃぐちゃ」  わざと大袈裟に動かす唇で梢平の耳をなぶる。ふつふつと赤らむ肌を愉しみながら、一度の吐精で萎んだかれをのみ込むみたいになかを収縮させると、かれの肌にぶわりと朱が散った。 「んっちょっやっいま()ったばっか……っつーか起きたばっかなんだけどっちょっあっ……なゆっ、ぁ……もっやめっ」  寝惚けまなこを真っ赤に染めて刺激に沈む姿とうらはらに、かれの芯はまた目覚めてゆく。厚さを増すほどに生々しくなる脈動に、名雪はうっとりと喘いだ。 「あ……ぁんぅ……また抜かずに復活したね。さっすがぁ」 「は、ん……もう……あー……でもきもちい夢に続きがあんのって最高かも……」  まだまだ赤い顔をして、それでも自分を――色に惚けて昂ぶった自分を――取り戻したらしい梢平が、覆い被さるように名雪を抱く。肩と背に両手を回されれば交合はおのずと深まった。狭い名雪のなかはかれとかれの精とでみっしりといっぱいで、ちょっとやそっとの揺さぶりなんかでは音すら鳴らないほどなのに、二人だけはそこが熟田(こなた)のようによく満ちていることを知っている。  キスをして、深くキスをして、目を見合わせて、笑い合って、はにかむついでに互いに顔を背けてぴったりと抱き合って。 「てゆうかね、挿れてたけど、梢平が寝てるあいだ、べつに腰もなかもそんな使ってなかったんだよ。だからさっき梢平さ、たぶんほとんど乳首だけで達ったんじゃん? おめでとー」 「は、はあ?! いや、すくなくともべつにぜんぜんめでたくないから!」  まるまると膨らんだままの梢平の乳首を指先でこすると、かれはくずおれるようにからだを慄わすし、なかから伝わる感触だってかれのからだに走る快感の大きさを伝えてくる。 「いいじゃん。乳首記念日じゃん。この色がいいねとおれが言ったから」 「怒られそうな上の句作るのやめてくれる?!」

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