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淫雨
車のインテリジェンスキーに似た、掌に収まる流線型の物体。手渡されたそれを見つめていると、強い視線を感じた。裸のままベッドに沈むように身体を投げ出している名雪 が期待に満ちた目差しを梢平 へとむけている。
さっきまでセックスをしていた相手だ。終わって、勧められるがままに先に風呂に入ってきた。だけど名雪の状態を見る限り「お先でした、次風呂どうぞ」って感じではなくて、梢平は乾かない髪を搔き上げた。
黒地のプラスチックに映える銀色のボタンを苛立ち交じりに連打すれば、名雪は嬌声を上げた。耳に届くモーター音の明らかな増幅を思えば梢平の手にあるものが「それ」のリモコンであることは明らかだ。
「……んんぅ………ゃあん強いぃ……や、ぁん、んっんぅっあっあんあっ」
肉の薄い名雪の背中で儚げな肩甲骨が震えている。
(そう、「儚げ」。見た目だけは、完璧に。震えてる反対側で自分の乳首捏ね回してても)
違うボタンを押すとモーターの唸りが静まった。
「ㇸゃ……っん、えっ……ちょっと梢平? なんで止めんの?!」
「なに。これ」
努めて低い声で訊ねたが、名雪はあくまでもけろりとしている。後ろにそれを挿入したまま身体を起こすすがら、なかが擦れたのだろう、無頓着に「あん」と甘く鳴いた。
「大人のおもちゃ♡ なに、めずらしかった?」
「てゆーか、AVでも見ないよこんなえぐいの」
「んーだって梢平が見てんのってどうせゲイビじゃないんでしょ? これ、男のアナニー用のだもん。この挿入してるとこがでかめのディルドになっててバイブ機能もあって、あとチンコの付け根締めるリングがついてんのね、ほら。リモコン操作しつつ乳首いじりつつドライで達けるからちょういいんだよね」
喘ぎに喘いで掠れた声でとめどなくのたまう名雪に、またため息が漏れた。一度は拭き取った肩口を、髪から落ちた雫が濡らしている。
「そうじゃなくて。なんでこんなの使ってんの」
「なんでって……もう何年も続けてる朝晩の習慣だし。これちょう気に入ってて壊れるたび買い替えてて、これ五台め? とかなんだよねって、あっ……ㇶやん」
ほんの数十分前には梢平を収めていた場所を占拠する厚かましいそれに手を伸ばす。名雪はまた表情を変えた。うらめしくて乱暴に揺すっても、名雪は蕩けるように悦がるばかりだ。
「手動でも気持ちいの?」
「だってぇ……いま、ちょう……ぃ、いいとこぉ……あたってるからっやっぁああんあっああ」
「抜けねえじゃん」
「だ、だって……リング、は、ぁ……外さないと抜けない……ようになってる、もん……」
「好きもん過ぎるだろ」
「はぁ……ぁんっしら、なかっ…あ、ふぁ……は、知らなかったっ……の?」
「知ってるけどさあー」
「ょ、しょへっ……リモコンっさっきのリモコン使ってぇ……や、やあああぁっいいっいいき、きもち……ぃ」
自分の快楽を追うことでめいっぱいになっている名雪にねだられるがまま操作したリモコンを、乱れたシーツの上に放った。
「おれ帰るね」
「んぇっ? は、なんでぇ……梢平、でかくしてるじゃん……もっかい、しよ……?」
「でも名雪さんはおもちゃ大好きなんだろ。いらねんじゃねえの、こんな粗チン」
「は……ぁあ?」
と、突如柄悪 げに目を眇めた名雪は、先ほど梢平が手放したリモコンを拾って、電源を落とした。艶めいた吐息を噛み殺すようにのどを鳴らしながら、自身の根元を戒めるリングを解き、後ろからディルドを引き抜く。
(すげぇ光景……)
どろどろに濡れたそれを、気にかけるふうもなくラグの上にごとりと落とした。
「冗談やめてよ、梢平って自分のチンコがどんなにイケてるかわかってないの?!」
「えっおれが怒られるのかよ」
「も、ほら来て……」
スウェットの腿の辺りをつままれて、誘われる。ベッドの縁に脛が当たる位置で棒立ちを続ける梢平の、とっくにきざしているそこに、名雪が顔を寄せた。
淡い色の髪の隙間から覗く耳が朱を帯びている。セックスの直後にえげつないディルドで遊び出すような、どうしようもない好き者の、そのくせおぼこいみたいにたやすく染まる、この白い肌が好きだ、と、梢平は思う。
悪戯っぽく、それでいて堪らなく艶めいた目で、見上げられる。
「こういう薄いねずみ色って、濡れると目立つよね」
目を合わせたまま、薄くて赤い舌をいっぱいに突き出して、その真ん中を器用に窪ませ唾を溜めて。目だけで微笑みを投げた名雪は、その舌を、スウェットの上から梢平自身に押しつけた。
「ふふ、もらしたみたいじゃない? いくら隣の部屋でも、同じ階の人に見られちゃうかもだよね」
これでもう帰るなんて言えないだろうとばかり、得意げな名雪の髪に手をやる。
「ね、一回このまま口でしたげよっか」
「乳首、自分で腫れるまで弄ったの?」
魅力的な誘いかけを黙殺して膝を持ち上げ、名雪の胸元をスウェットでくすぐるように撫でる。
「んっ、ちがっ……梢平のこと考えてたら、も、勝手に腫れちゃう、からぁっ」
「おれのこと? セックスのことじゃねえの」
「だっだってぇそん……なぁ、んぅ……もう、いっしょだも、ん、いま、梢平としかっしない、し……」
「そんなに裾握られてたら名雪さんの好きなの、出せないんだけど」
スウェットの上下をいっしょくたに握り込んでいた手を素直に外した名雪が、バランスを崩したのか身体を後ろへよろめかせた。尻もちをついた格好で梢平を見上げる名雪を跨ぐようにベッドに膝をつく。
名雪に握られて皺の寄った裾を持ち上げて、上を脱ぎ捨てる。まだ乾かない髪が雫を散らした。濡れた肩口が冷たい。
下着ごと下のスウェットを脱ぐ梢平から、名雪がじりじりと後ずさっていた。
見ての通り名雪は奔放で、恥じらいなどとは無縁な性分だ。関係を持ち出した始めの頃「ちょっとは恥じらって」と懇願した時に「そういうプレイ? いいよ」と返された記憶はいまでも梢平のなかで鮮烈だ。
「なんで離れんの?」
不思議に思って訊ねると、腰が引けているとは到底思えない淫靡な笑みが返された。名雪は躊躇いもなく下肢を開いて梢平を呼ぶ。
「次は坐位がいいなって。腹筋ないから壁に凭れたいんだよね」
倒れたらただの正常位じゃん、と言う名雪は実にかれらしく、梢平は苦笑した。
既に自ら腿を持ち上げて秘部をさらしている名雪にいまさら前戯を仕掛けるのも無粋だ。直裁な仕草で名雪の細い腰を抱えると、梢平も腰を揺らしてかれの襞を探る。すっかり立ち上がっている自身がぬめりを纏って、音を立てる。
「風呂に行く前に拭いたげたのにね。またローションぶちまけてさあ……こんなんじゃ名雪さんの後ろ、ぜんぜん乾く間ないよね」
自分の腿を下ろすまいとする仕草がいじらしく、片膝だけを肩に担いでやる。すると名雪は自由になった右手で、自分の尻たぶをかきわける仕草を見せた。肉の薄いそこは、もとより秘部を隠す役になど立っていないというのに。
梢平のかりが秘蕾をひっかくたび、名雪は笑い声交じりに喘ぐ。
(ばかみたいだな)
先端で蕾をつつくと、名雪は襞を伸縮させて梢平をのみ込んだ。
梢平は一人暮らしだけれど相手だって高校生なら外泊なんてさせられない。セックスをする時間帯なんてこれまでの相手とは放課後がすべてで、だから女の子のヴァギナを明るいところで目にしたことだって何度もある。
ヴァギナにペニスがのまれる様は少しファンタジックで、だけどアナルはもっと機械的な仕組みを感じさせる。そこに寄る襞を見れば広がりに限界があることは明らかで、セックスのために濡れるわけもなくて。
でも、濡らして、開いて、気持ちよくって。
(ばかみたいに、幸せ)
「あ、は、ぁんっ、ふぁ」
「おれの、そんなに好きなの?」
つくづく馬鹿なことを口にすれば、名雪はこくこくと首肯を返した。
「先が……ん、ㇷぅ……ぁふかって……しててぇ……でかい割りに、ぁ……ゃ、柔らかい、感じ、で……は……ぁ……いるっ……でしょ。ふふ、で……ぁ、あっ……なかで膨張すんの……おれ、なかでっで、か……く……ㇷ、ぅん……されんの、好き……きもちぃ……」
梢平よりも単純明快な梢平のそこは、名雪の熱烈な告白にあっけなく応えてしまう。自身の嵩が増したことで圧迫感が強まり、梢平も息を詰まらせた。
「く、ぅん……はっ」
「あんっんぅ……これ……ちょぅ好きぃ……ひぃやっあんっあっあっあぁっ」
歯をくいしばって耐えようとしても、名雪のへらへらとした吐息に脱力させられれば、圧迫感と射精感が綯い交ぜになったどうしようもない快感に包まれる。
やけくそみたいに梢平が腰を回せば、名雪のほうは前後に揺すった。やがてなかから伝わる痙攣が名雪が達ったことを知らしめ、梢平もかれのなかに精を放った。
「はぁ……ああ……も、……」
ちゃんときれいにしないとまた腹を壊すよ、と忠告したって名雪は「浣腸の手間がなくていいね」とか言うに決まってる。そう決めつけて梢平は口をつぐんだ。
(看病だっておれがしてあげるし)
「名雪さん、背中痛くない?」
「へーきぃ、あっ……」
ちぐはぐな位置にあった名雪の両膝を、梢平の腰に回させた。繰り返し腰を蹴るかかとが密着をねだるしるしのようで、梢平は腰をさらに擦りつけて、揺さぶった。
「いいっいぃいいいいっあっああん、ぁんっ……ょㇸ、しょへっもっとぉ……」
何度も達して、でも引き抜く前から貪欲な名雪に次をねだられて、梢平の若い性欲は萎える間もない。
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