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第1話
連日のテスト採点や再テスト作成で疲れ果て、知らぬ間に校内の資料室でぐっすり寝ていた西辻 が、ふっ、と目を覚ますと。
何故か椅子に縛り付けられていた。
はっと首を上げて辺りを見回すと、薄暗い資料室の中には、縄を手にした人物がひとり。
「お、おい……柿本 ? 何を、してるんだ?」
西辻の手脚が固定された椅子の斜め前に佇んでいたのは、柿本、という男子生徒だ。
「何って……あんたを犯そうかと」
感情の見えない表情の柿本は、あっさりとそんな言葉を投げるが。
「はっ、ははっ……」
西辻は動揺を隠しながら笑った。
こんなの、どうせ遊びだろう。資料室の外には他の生徒連中も居て、西辻が本気で拒もうとすれば、ゲラゲラ笑いながらスマホで写真でも撮り、翌日にはその恥ずかしい写真をクラス中に広めるのだろう。
「こんな風に先生をからかって、楽しいかい? なぁ、柿本。きみも嫌な役に回されたね。ジャンケンで負けたのか?」
西辻は怯えながらも微笑んで諭すが、柿本は無表情を崩さず、ゆっくりと近づいてくる。
「別にぃ……俺がやりたくて、ひとりでやってんだけど」
そんな言葉と共に腕を伸ばした柿本は、その指で西辻のワイシャツのボタンをひとつひとつ外す。
「ちょつ、ちょっと待ったっ!」
西辻はもう余裕を無くした。生徒達からかわれても構わない。力づくで椅子をガタガタ動かして、柿本の動きを止める。
「ほっ、本気なのか? 何でこんな事するんだ?」
真面目な声で叱ると、柿本は鬱陶しそうに睨みつけてくる。
「やりたくてやってるだけ、って言ってるだろ」
「だーかーらー! 何でこんな事やりたくなったんだよ!」
混乱から思わず大声で怒鳴ると、柿本の表情にも少し困惑の感情が見えた。
「こないだまで、あんたから一対一で教わってただろ……それが……気持ち良かったから」
確かに、つい先日まで西辻は柿本に個人授業をつけていたが……それとこれとが何故繋がるんだ。
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