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第8話
「……嫌、ではないよ」
色々と戸惑いはするが。それは嫌悪感とは違う。
「自分も、きみを嫌いではないし……構わないよ、きみが自分を好きでいても」
だんだんと西辻は恥ずかしくなってきた。なんだか「友達からの付き合いなら」と男子からの告白に返事する女子のようで。
「俺を嫌いじゃないって、俺を好きなの?」
また真っ直ぐに質問をぶつけてくる柿本に、ひとつ溜息をついて。
「それはまだはっきりと言えないけど。柿本が自分を好きでいる事よりも、いまここで、柿本が自分の元から離れていくほうが、自分は嫌だ」
西辻も真っ直ぐに答えた。
「それに柿本も、好きなひととの接し方、というのがどういう事か分かってないんじゃないのか? だから自分に色々と訊いてきたんだろう?」
落ち着いた西辻からの質問に、
「……それはそうかも」
少し考えて、柿本は応える。
「だから、これからまた、一対一で、教えたり教わったりしていけば良いかと……いや、良い、っていうのは、性行為を許す、って意味じゃないぞ?」
また落ち着きを失くして、西辻は注意を付け足しておいた。
会話が一旦止まると、柿本の手首を掴んだ西辻の腕とは、反対の腕がぐいっと掴まれて。
西辻の唇に、柿本の唇が当てられた。
一心不乱の口付けに苦しくなって、柿本の背中をばしばし叩く。すると唇は離されたが、今度はぎゅうっと抱き締めてきた。身体の骨が折れて、内臓が飛び出るほどの、物凄い力で。
突然のキスにはもちろん驚いたが。縛られて触られた時のような恐怖感は無い。それは抱き締められている現在も同じで。
(俺も……こいつの事を、本気で、好き、なのか?)
それはまだ分からない。そしてこれからは、校内での接し方にも戸惑うだろう。
けれども「一対一で教える」と柿本とは約束してしまったから。教師と生徒ではなくなっても、その約束はちゃんと守りたい。
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