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第7話
柿本が好いてくれるのは分かったが。それが恋愛感情だというのは、西辻にはどうしても理解できず。
「柿本はさ、好き、の意味を勘違いしてるんじゃないのか?」
はっきりと問い掛ける。
「かんちがい? 俺はあんたを好き、って思ったし、現在も思ってるんだけど」
柿本からもはっきりと返された。
「だってさ、柿本はなんで自分なんか……いや、自分のどこを好きになったんだ?」
真剣に訊いてみた。しかし、上手く答えられないかな? 恋愛、とかを全く分かってなさそうだし。
「俺が今まで生きてきた中で、一対一で喋って、楽しくなったのは、あんただけだから」
西辻の予想とは裏腹に、柿本は一言ずつきっぱりと答えを返してくる。そんな台詞に思わずどきっとした。
「……その言葉は嬉しいけど」
柿本からの答えを否定していく内に、西辻はだんだんと罪悪感が芽生えてきた。
「それは性の対象として見る、好き、とは違う意味の、好き、だろう。生徒から教師への愛着というか……」
「その好きと、この好きは、どこが違うの」
西辻の説明を遮った柿本からの問い掛けに、また困惑する。純粋な気持ちをぶつけてくる若者から逃げている罪悪感に。
「だってさぁ……さっき柿本は自分の身体を触って、気持ち良かったか? 興奮したか?」
その問いに怯むかと思ったが、柿本は力強く頷いた。
(嘘ではないし……勘違いでもないよな)
柿本と向き合った西辻が、もう何を問い掛けたり説明したら良いか分からなくなり、しばらく無言が続いた。
「俺がまた一対一で話したい。絶対に他の奴等は入れないで接したい、って思ったのは、あんた……西辻先生だけだから」
突然呼び方を変えた柿本に、西辻はまた個人授業を思い出した。
西辻は強気で叱るタイプの教師ではなく。控え目な性格で、存在感も薄いので。生徒達から呼ばれるときは、ただ「ねえねえ」と言われたり、名前を呼び間違えられるのもしょっちゅうで。
いつか校内の廊下で、柿本ひとりが「西辻先生」と呼び掛けてきたときは、少し、いや、かなり嬉しくなった。
(なんか、自分も……妙な方向に、気持ちが動いてないか?)
ふと不安になった。柿本の誤った恋愛感情を正そうと、西辻はこうして話し合っているのに。するといきなり、すっと柿本が立ち上がった。
「道は分かるんで、歩いて帰る」
柿本はバッグを手に取ると、西辻の顔を見ずにそう告げた。
「なんで、いきなり……」
西辻も立ち上がって傍によるが、視線は逸らされる。
「俺を嫌いな人と喋ってても、つまんないし」
「自分はっ……おまえを嫌いとは言ってないだろ?」
思わず柿本の手首を掴んだら、拗ねたような瞳で睨まれた。
「でも、俺があんたを好きでいたら嫌なんだろ?」
「それはっ……」
教師として答えるか、個人として答えるか。真っ直ぐに心をぶつけてくる柿本に対して、どっちの心を優先するか、西辻は揺れた。
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